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九話

 俺は逃げた。

 地の果てまで、星の最果てまで。


 でも、いい加減体力の限界だった。ミズキは学長と番長の精神で中和しても無意味なほどに強い精神力を持っていた。体力も運命力も俺のほうが上のはずなのに、既に俺は背後から迫り来るミズキの気迫に泣きそうになっていた。


 もう嫌だ。これ以上逃げ続ける人生は耐えられない。

 ヒナも紗雪も……俺より先に限界を向かえミズキの中に取り込まれた。

 この世界には、もうミズキしか残っていない。


「うぅううううううるぅううううあああああああ!!!!!!!!!! ガァアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「逃げ続けても埒が明かないか……」


 俺はミズキのほうに振り返った。


「俺には無限の運命力がある……。時間を振り出しに戻してやり直すしかない……だが……」


 それではなにも解決しない。

 結局、さっき融合した俺のように無限に過去に戻り続けるだけだ。


 絶望……。

 その二文字が俺の頭を支配する。


「何か方法はないのか……何か……」


 その瞬間、俺は背後に気配を感じる。


 振り返った先、そこに立っていたのは初代学長の像だった。

 風化したその顔に、俺は昔からどことなく見覚えがあるような気がしていた。


「まさか……」


 俺は初代学長の像の前に膝をついた。


「これは……石化した俺だ……!!」


 瞬間、俺はミズキのほうに手を伸ばした。


「ヴァアアアアアアアアアアア!!!!!!」

「ミズキ……どうやら俺には切り札が残されていたようだ。俺自身気が付かなかったが……まあいい、この戦い、俺の勝ちだ」


 俺の体はミズキに融合し、そのままミズキごと時空の彼方へと進んでいく。これはミズキの思い通りの結果だ。だが、俺にとってはミズキの目的なんぞ知ったことじゃない。俺は、俺自身がこの地獄から解放されるなら敵の目的が叶ったところでどうでもいい。


 過去へ向けて無限に加速していく俺の体を見送り、初代学長の像は微笑んでいた。

 そして、学長の像は光を放ちながら崩れていく。


 中から現れたのは……『俺』だ。


 俺はミズキごと過去へと向かう俺を見送る。


 俺は時間を束ねて、未来の俺と過去の俺を融合することで運命力を高めた。融合が出来るのならその逆の分離が出来てもおかしくはない。そして俺は自らの意思を二つに分離した。片方をミズキと融合させ、もう片方を過去の俺が残した器に……初代学長の像に宿したのだ。


「あばよミズキ、俺の抜け殻とよろしくやってな」


 これはトカゲの尻尾切りだ。俺は俺を売ることで俺を生かすことに成功した。

 ミズキは時空の彼方へと飛ばされた。もう、俺は自由だ。


「俺の勝ちだ」


 崩壊した世界の中、俺はただ一人生き残った。


「でも、これで本当に良かったのか……?」


 この世界に紗雪はいない。

 ヒナもいない。


「ひとりぼっちに……なっちまった……」


 涙が頬を伝う。

 俺は本当にこんな結末を望んでいたのか……?

 紗雪もヒナもいない、こんな広漠とした大地にただ一人生き延びる、そんな無為な最後を……。


「お兄ちゃん……!」


 俺は振り返った。


「紗雪……? どうしてここに……!」

「えへへ……」


 紗雪はにこりと微笑み、それから俺の手を握る。


「お兄ちゃん、私がお兄ちゃんから全てを奪ったのは、実はこのときのためだったの……」


 紗雪が手を離すと、そこには光輝く球体があった。


「紗雪、これは……?」

「さようなら、お兄ちゃん……私、お兄ちゃんと一緒にいられて幸せだった……」

「紗雪……!」


 紗雪は光の粒に分解され、風に吹かれて消えていった。


 俺は奥歯を噛み絞めた。

 紗雪が残してくれたものを……絶対に無駄にはしない!!


「アークストライク・ブラッド!!」


 俺は光の球体を掲げ、叫ぶ。


「アーキタイプ・エルグレコ! マナ・チャージ・イン!!」


 エルグレコと光の球体を重ね合わせ、俺は全魔力を集中する。


「悠久の彼方から連綿と紡がれた意思と記憶の結晶を、清らかなる魂により救いあげる! 太陽の力よ! 運命の戦士に栄光に満ちた勝利を授けたまえ! パワー・ブレイク!」


 光が広がり、記憶が物質と化していく。


「サンダー・シー・アンバサダー!!」


 エルグレコと光の球体が完全に同化していく。

 俺はそれを見届けると、涙を流しながら笑った。


「ありがとう紗雪……そして、これから広がっていく無限の可能性に祝福を……」


 世界、創世──。

 それが俺と紗雪の回答だった。


「越谷、俺のいない世界でも幸せに生きてくれ」


 俺はマントを翻し運命力の彼方へと歩いて行く。

 俺の出番はここまでだ。


「あばよ、全人類……」

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