八話
俺はミズキの腕を極め無力化した。
「ミズキ、もう諦めろ。俺には無限の運命力がある。お前には勝ち目はない」
「やだもん……。私は……あなたとずっと一緒にいたいだけなのに……」
「だけって言うけど、それで核戦争起こして世界を滅ぼすような女とはどっちにしろ一緒には暮らせない」
俺の言葉にミズキは奥歯を噛み締める。
「私は何も間違ったことしてない……!!」
「お兄ちゃん、もうコイツ殺したほうがいいよ。さっき殺した教師よりコイツのほうがよっぽど悪党だよ」
「世界滅ぼしてますしね……」
俺はミズキの後頭部に手刀を入れ気絶させ、その場に放置することにした。
「殺さなくていいの? 代わりに私が殺してもいいけど」
「放っておけば巨人に踏みつぶされるだろ。運が良ければ生き残るかもしれないが……まあ、こんな世界で生き残っても仕方がないとは思うがな」
俺は一面の砂漠を見渡し、ふと向こうのほうから二人の男が歩いてくるのを見つけた。
「番長と学長!」
「太陽とその他二人か……生きてたんだな……」
「お前が言ってたミズキの計画ってのはこれのことか。あの時お前の忠告を聞いていればこうはならなかったのかもしれないと思うと悔やんでも悔やみきれない」
番長は俺の言葉を聞き、首を傾げた。
「は……? これ全部ミズキがやったのか……?」
「信じられん……。たった一人で核戦争を起こすなどあまりにも用意周到すぎる……。なんという胆力……」
「これじゃないなら、お前が言ってた計画って何だったんだよ……」
番長は服の中から一枚の紙きれを取り出す。
それは結婚式の招待状だった。
「はあ? なにこれ」
「お前とミズキの結婚式の招待状だ」
「俺の名前を取り戻すチャンスってのは何だったんだよ」
「結婚して婿に入れば新しい苗字が手に入るだろ? 人生を新しくやり直す良い機会だと思ってな……」
「俺はてっきり紗雪の契約をどうにかする方法かと思ったんだが……」
「お互いに勘違いしていたようだな」
番長は荒れ果てた砂漠を眺め、呟く。
「もしお前がミズキと結婚してたら、こんなことにはならなかったのかもしれん……」
「嫌に決まってんだろ」
「それもそうか……嫉妬で世界を滅ぼすような女だ。結婚生活が上手くいくとは到底思えん」
俺と番長の話を聞いていた学長は神妙な面持ちで口を開いた。
「いや……まだ方法はあるかもしれん……」
「なんのだよ」
「お前さんとミズキが結婚する方法じゃ……」
懐から包丁を取り出す紗雪を俺がなだめ、ヒナの溜息交じりの声が学長に問う。
「太陽さんと伊藤さんが結婚して今さら何になるんですか? そもそも、こんなことする人の結婚を素直に祝えませんし、喜べません」
「私以外がお兄ちゃんと結婚するとか、許せるはずないよね」
「融合じゃ」
「あ? 融合?」
「融合した者は意識が溶け合ってひとつになる。たとえ性格に難のあるものでも、複数混ぜれば中和しあって平均的な性格になる可能性がある……ワシが言っていることはそういうことじゃ」
「融合すればあなたと結婚出来るって本当?」
背後からの声に俺たちは振り返った。
満身創痍のミズキが、足を引きずりながらこちらへと向かってくる。
「もうこの際どんな方法でもいいよ。融合でもいい。それで私が幸せになれるなら……」
「太陽、もう人類を救うには残されたワシらの魂をひとつにまとめあげ運命力を限界突破するしかないのじゃ!」
「無茶言うなよ……」
「無茶でないことを証明してやる! 行くぞ!!!!!」
校長はミズキのほうに全力で突進し、そのまま彼女と融合した。
「ヴォオオアアアアアアアアア!!!!!!!!」
校長がミズキに取り込まれ、断末魔の悲鳴が周囲一帯にこだまする。
「仕方ねえ……あばよ太陽、俺も行くとするぜ」
番長がミズキに突撃し融合する。
「ヴァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
学長と番長とミズキが融合したものが、雄叫びを上げる。
俺は、逃げた。
こんな狂った状況に耐えられるはずがない。
だが、どれだけ逃げても奴は追いかけて来た。
運命力は自分と関係性の強いものに引き寄せられる。どこにいようとも、奴は本能で俺のことを追ってくるのだ。