七話
俺は今この瞬間、無敵の運命力を手に入れた。
世界の全て、あらゆるものを物理的になんとかする力だ。
俺は未来の俺と融合した……だが、未来の俺は記憶を失っているから、なぜこんな無敵の力を欲したのかは分からない。たぶん、それは最初のループの自分だけが知っていることで、その記憶も消えてしまったのだろう。
まあいい。とにかく今はここを脱出し、ヒナと紗雪を助けることが最優先だ。
俺には今、無限の運命力がある。
「たぶんあっちだ!」
俺は本能の赴くままに進み、建物の部屋の中に二人を発見した。
「教祖様! 遂にエルグレコを手に入れたのですね!!」
「まあそんなところだ。二人を開放しろ」
「太陽さん! 無事だったんですね!!」
「お兄ちゃん……これどういうこと……?」
抱き着いてくるヒナと混乱した様子の紗雪。とりあえず二人を連れて建物の外に出る。
そして、俺たちは信じられない光景を目の当たりにした。
「そんな……世界が……」
この世界は荒廃していた。
無限に続く砂漠の上を、巨人の群れが闊歩し、人間の姿はひとつも見当たらない。
「これはどういうことだ!」
俺は近くにいた男に聞いた。
「つい先ほど核戦争が起こり世界が滅びました!」
「馬鹿な……原因は……」
「キャハハ!! 相変わらずおバカさんなのね、あなたは!!」
「ミズキ!」
「これは私の計画よ。あなたが私のことを蔑ろにしたから……! 私よりその女を優先したから……ッ!!」
ミズキは紗雪を指して叫ぶ。
「この薄汚い女狐がッ!!! 私の男を返せ!!!!」
「はあ? 私の男って誰のこと~??? 名前で教えてくださ~い」
「お前が名前を奪ったから誰もそいつのことを名前で呼べないんだろうが!!!!!!」
「ええ~? もしかしてお兄ちゃんの話してる? お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよ? それ以上でもそれ以下でもないから。分かったら家に帰っておねんねしてろクソアマ!!!!」
「ちょっと待ってくれ」
俺は二人の言い合いに割って入り、ミズキに問うた。
「それとこれとは関係なくないか?」
この世界は核戦争によって滅んだ。しかし、どう考えても俺が原因だとは思えない。ミズキは、この世界を滅ぼすことで何か俺が心変わりするとでも思っているのだろうか。
「世界が滅ぼうが滅ぶまいが、俺はお前が無理だから振ったんだぞ……」
「じゃあ世界が間違ってるってコトでしょ? 私とあなたが結ばれない世界なんて間違ってるもん。壊れて当然だよ!」
「壊れても何も解決しないだろ。現に俺はお前のその行動にむしろイラつきを感じている」
「……」
ミズキは俯き、それから地面に頽れる。
「分かってるよ。こんなのただの八つ当たり。某国の諜報機関に嘘の情報を流し込んで、それに対立してるかの国にも偽の情報を与えて核戦争の火種を作った。でも、そんなことしてもあなたが私のこと見てくれるなんて、私だってこれっぽっちも思ってないよ……」
「だったら何で……」
「みんなも私と同じくらい不幸になって欲しかったから……。私だけ不幸で、みんなが幸せなんて許せないもん……」
ミズキの言葉にヒナは眉根を寄せる。
「えっと、伊藤ミズキさん……でしたか? あの、初対面の私が言うのもアレですが、あまりにもあんまりではないですか……? そんな理由で世界を滅ぼしてしまうなんて……」
「はあ……お兄ちゃんが悲しむって想像できなかったの? そういうとこだよ。そういうとこが嫌われてんの。性格が終わりすぎてて話になんないの。てか本当に伊藤さんって人間? これ鬼畜がやることだよ? こんな簡単に人類滅ぼしちゃってさあ! ねえ! 聞いてんの!?」
「落ち着け紗雪。おい、ミズキ……これどうすんだよ」
「どうもこうもないよ。終わりは終わり。私が不幸になるように出来てた世界のほうが悪いんだもん」
「話になんねえな」
「一生平行線ですね……」
「頭おかしいメスブタ。お兄ちゃんに近寄らないで。本当キモイから」
紗雪とヒナと一緒に向こうのほうに行こうと思ったその時、背後から金切り声が聞こえて来た。
「行かないでよ! おいてかないで!!!! なんで私に冷たくするの!?!?」
「……」
ミズキは立ち上がり、魔導書を開いた。
周囲に魔法陣が浮かび上がり、そこから大量の魔力が放出される。
「もうこうなったら仕方ないよね!! あなたを殺して私も死ぬ!! 天国で二人で一緒に暮らすんだからッッッ!!!」