四話
「何ぃいいいいい!?!?!?!?」
徐々に融合していく俺と担任とヒナの肉体。
「お前は越谷と融合したいんだろ……? でも残念だったな。越谷は融合を拒み、俺は融合を受け入れている。先に融合するのは越谷ではなくこの俺だ!!」
「ば、馬鹿が!! 誰がお前なんかと……!!」
融合した魔神の意思は一つに結合される。俺が担任と融合して魔神になれば、融合を拒むヒナをさらに俺が拒むことで融合拒絶パワーは2になる。つまり、融合パワー1の担任に意思の力で勝てると踏んだ。
「く、クソ……! 融合は中止だ! お前を取り込んだら私の計画が全てダメになる!!」
担任は融合を拒絶し、ヒナの体が外部へと弾き出されると同時、俺も担任を拒絶し担任の体から脱出する。
「太陽さん……」
「無事か、越谷……」
ヒナは泣きながら俺の胸に顔をうずめる。
「太陽さん……こんな無茶したらダメですよ……! お腹に傷が……!」
「これくらい平気だ。紗雪は俺を殺したいわけじゃない。足止め程度の傷だ」
「そうだよ。私がお兄ちゃんを殺すわけがないよね! そんなことも分からないとか、やっぱり越谷さんって馬鹿だよね!」
俺は担任のほうに視線を移す。
「お前……自分の教え子と融合するために高校教師になったと言ったな……」
「う……! 俺は逃げるぞ! お前から! そして自分自身の罪から!」
走って逃げようとする担任に向け、俺はエルグレコを構える。この距離ならまだ投擲で当てられる。
瞬間、血飛沫が校庭を濡らした。
「あ、巨人です。間違えて踏みました」
「気にしないでください。大丈夫です」
巨人は向こうのほうに歩いて行った。
校庭には踏みつぶされ粉々になった担任の遺体が残っている。
「やるじゃねえか! 見直したぜ太陽!」
教室のほうを見上げると、番長が腕を組みながら不敵に笑っている。
彼はひらひらと魔符を見せびらかしながら、俺たちを見下ろして言う。
「これは昨日呼び付けたのに来なかった罰だぜ! 担任の欲求を加速させて押さえきれなくしたのは正真正銘この俺だ!」
「番長……てめえ……!」
「まあそうカッカすんなって」
番長は教室の窓から校庭に飛び降りると、俺たちの前まで歩いてきて魔符を破いて捨てた。
「伊藤ミズキのこと、覚えてるか?」
「……俺の元カノだ」
「お兄ちゃん……私よく聞こえなかったんだけど、その伊藤なんとかって人、お兄ちゃんのなんだって……?」
「ミズキが今どこで何をしているか、お前は知ってるか、太陽?」
「知らないし聞きたくもないね、あんなロクでなしの話なんざ耳に入れても何の得にもなりゃしねえ」
「そう言うな、これはお前の名を取り戻す方法があるかもしれねえって話なんだぜ……?」
「聞く耳ねえな。俺は一ヶ月後の魔導剣術大会でケリを付ける。てめえには関係ねえよ」
「とことん頑固な野郎だ。まあいい、時期にミズキの計画が動き出す。お前が気付く頃にはもう全てが手遅れだぜ」
番長はそう言って校舎のほうへと戻っていった。
「いいんですか……? 名前を取り戻す方法が他にもあるって……」
「人でなしの練った計画だ。駒として利用されるに決まってる」
「お兄ちゃんを駒として利用……? なにそれ……私許せないんだけど……。ねえお兄ちゃん、あの番長とかいう人殺せばお兄ちゃんは困らなくて済む? 私あの男のツラ大っ嫌いだから包丁とハサミでずたずたにしてやりたいって思ってるんだけど……」
「やめとけ。番長は魔導空手の有段者だ。お前の敵う相手じゃない」
「ふーん、魔導空手か何か知らないけど、私あの男殺すことにした」
俺は連れて教室へと戻る。
すると、俺たちの背後から一人の大男が現れた。
俺たちを見下ろすその男に、俺は傷む腹を押さえながら問うた。
「誰だてめえは」
「我はこの学園の現学園長にして魔導界のトップ、芝崎幸太じゃ」
芝崎は俺の首を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
全身に衝撃が走り、強烈な頭痛と吐き気に苛まれる。
「が……あ……ッ!!」
「君の担任は確かに犯罪者だ。しかし、学生が教師をリンチするというのは見過ごせない。君には相応の罰を受けてもらうとしよう」
薄れゆく意識の中、ヒナと紗雪の声だけが、俺の頭の中に響いていた。