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三話

 家に帰る途中、ヒナは太陽から聞いたことを思い出す。


『もうじき俺はエルグレコを質屋に出す。そうすれば……俺の名は永久に失われるだろうな』

『だけど、紗雪は悪くないんだ。アイツには善悪の判断が付かない。アイツは……人間じゃなくて魔神なんだ』

『俺は魔神の秘密を解き明かして紗雪を人間にしてやりたい。魔神のままのアイツはいつかきっと犯罪を犯す。そうしたら人間界ではやっていけない。紗雪が人間界で生きていくために……俺は一ヶ月後の魔導剣術大会に出場する。それが最後のチャンスだ』

『悪いな……初対面のお前にこんなことを聞かせるつもりはなかったんだが……。アイツの無礼には理由があるってことだけは伝えたかったんだ。気を悪くさせて悪かったな』


 ヒナは太陽のことをまだ何も知らない。

 だけど、彼が自分のことを助けてくれたことだけは事実だ。


「初対面の私のことを助けてくれて……魔神の紗雪さんを助けようとしていて……太陽さんは良い人です……。それに比べて私は……」


 ヒナはその場に立ち止まった。


「私は太陽さんに大きな借りを作ってしまいました。この借りは絶対に返さなければなりません」


 ヒナは家に帰ると、地下の図書室で誇りの被った本を取り出した。


 魔導大百科。

 そう題された書物を開き、ヒナは魔とは何かを調べていく。

 太陽は一ヶ月後の魔導剣術大会に出場する。少しでもその役に立てるのであれば……。


 紗雪は真っ暗な部屋の中、テレビの画面越しにヒナのその姿を睨み付ける。


「この女……! やっぱり……!!」


 紗雪は扉を蹴飛ばして突き破り、リビングで本を読んでいた俺に詰め寄る。


「あの女やっぱりお兄ちゃんに惚れてるんだ。惚れてるからああいう本読むんだよ。だってそうだと思わない? 魔導の魔の字もない一般人風情が魔道書なんか急に読んじゃってさ! これもう殺めるしかないよ! お兄ちゃんもそう思うでしょォ!?」

「紗雪、今日はもう寝たほうがいい。明日も学校があるんだ」

「お兄ちゃん、あの女気を付けたほうがいいよ。絶対にロクな性格してないから。私そういうの全部分かるんだ~。顔に出てるっていうか、そういう匂いがするっていうか……」

「紗雪、俺も寝るから早めに寝よう」


 俺は紗雪を部屋に戻し、それから自室に戻った。


「おお神よ!」


 俺は胸のロザリオを強く握り締め絶叫した。


「神よ! おお偉大なる主よ! あなたはなぜこの私を救ってはくださらないのですか!! この惨めで小さき哀れな魂を! なぜ!! 私にはあなたの御心が分かりません! 私はただこの壮絶な運命に翻弄され続けることしか出来ません!! ああ! なんという残酷な運命!! 私は一体これからどうすればいいのでしょうか!!! 神よ!!!」


 翌日、教室の扉を開けると、クラスメイト全員が俺のほうを見てきた。


「アイツやりやがった……」

「絶対にやっちゃいけないことやっちゃった……」

「もう終わりだ……名前の次は何を奪われる……?」

「きっと肉体だ! そうじゃなければ命か魂だ!」


「おい、騒がしいぞ! 一体俺の何の話をしてるってんだ」


 俺が声を上げると、背後から番長の声が聞こえてくる。


「校庭を見てみろ。お前の隣人が大ピンチだぜ~?」

「あ? 越谷がなんだってんだ」


 教室の窓から校庭を見下ろすと、そこには担任に羽交い締めにされた越谷の姿があった。


「越谷!? それに担任……アイツ……!!」

「ははは! 見ろ! 今にも融合しそうだぞ! 融合したら魔神になる! 魔神は運命力に引き寄せられる! きっとお前の肉体を奪いに来るぞ!」


 俺は窓をぶち破って校庭に走っていく。


「太陽さん!」

「動くな! へへへ……越谷は……越谷は私のものだ……!」

「一体なんのつもりだ」

「私はね……? 私はね……? 自分の教え子と同化するために高校教師になったんですよ……? でね……? でね……? こんな可愛い生徒が転校するなんて思ってもみなくて……昨日一日考えました。でも、でも……もう我慢の限界です! 私は越谷ヒナと同化して完全体になる!!!」


 俺は鞘からエルグレコを引き抜いた。

 瞬間、俺は血を吐いて倒れた。


「紗雪……?」

「お兄ちゃんが悪いんだよ……。お兄ちゃんがあの女を助けようとするから……」


 俺は腹に刺さった包丁を抜き、荒い息を整える。


「太陽さん! そんな……私のせいで……!」

「あああ!!! 泣かないで越谷さん!!! 同化したらあなたの悲しみも私のもの!!! これ以上私はあなたに悲しんでもらいたくない!!!」


 担任は服の中から注射器を取り出す。


「やだ……! やめて……! 助けて太陽さん!」

「これでおねんねしてもらいましょうね……!」


 どうにかする方法はないのか……。

 どうにか……。


 刹那、俺は閃いた。


「うぉおおおおおおおおお!!!!」


 同化寸前の担任と越谷に体当たりし、自分も同化することにした。

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