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二話

「太陽さん、一緒にお昼食べてもいいでしょうか?」


 昼休みなると、ヒナは俺のほうにそう言ってきた。


「いいけど、何すんだよ?」

「一緒にお昼を食べましょう」


 ヒナは鞄の中から弁当を取り出すと、両手を合わせていただきますと呟く。


「ここに越谷ヒナって奴はいるか?」

「はい、私ですが……何かご用でしょうか……?」


 教室の扉の前で番長が嗤う。


「お前が越谷か。ちょっとツラ貸せよ」

「えっと……あの……」


 困惑するヒナに見かねて俺は番長のほうに声を上げる。


「いいけど俺もついてくぜ~。何か楽しそうだからよ~」

「勝手にしろ」


 俺は立ち上がりヒナのほうを見る。


「行くぞ」

「行くって……一体どこへ?」

「来れば分かる」


 俺はヒナを連れて無限の廊下を歩く。


「この学園の廊下は長いんですね……いくら歩いても終わりが見えません……」

「罠だな」

「罠?」


 瞬間、俺はエルグレコで頭上を引き裂いた。

 血飛沫の雨が降り、真っ二つになった肉の塊が足元に転がる。


「きゃぁああ!!??!? う、うぁああ……な、なんですの!? 人!?!? 死体……太陽さんが殺して……? え……?」


 死体は痙攣しながら隣の教室にゴキブリのように転がり込み、俺は溜息を吐いた。

 無限の廊下は一瞬歪み、それから元の普通の廊下に戻った。


「今のは結界だ。どうやらお前をからかって遊ぶつもりだったらしい」

「結界……? わ、私もう何がなんだか……」

「お兄ちゃ~ん!」


 廊下の向こうから紗雪が走ってくる。


「紗雪、二年の教室まで何しに来たんだ?」

「ねえ、その女だれ?」

「越谷ヒナだ。今日転校してきたばかりで勝手が分からないようだから学校のことを紹介していた」

「は、初めまして。越谷と申します……」

「私は悠久紗雪。お兄ちゃんの妹。たった一人のね」


 それを聞いてヒナは俺の顔を見てぱぁっと微笑む。


「なんだ、お名前あるんじゃないですか! 悠久さんというのですね! 良いお名前です!」

「お兄ちゃんと私は血が繋がってないの」

「あ……」

「何も知らないのに勝手に決めつけて浅はかだね。ちょっと知能が低いじゃないの……?」

「ごめんなさい……」

「ごめんで済んだら警察いらねえって言ってんのが分からないのかこのクソアマがああああああああ!!!!!!!」

「紗雪! 転校初日なんだ。許してやれ」


 紗雪はヒナの胸倉を放し、睨みながら言った。


「なんか知らないけどこの女お兄ちゃんに気に入られてる……? だとしたら殺めるしかないんだけど……」

「気に入ってねえよ。ただのクラスメイトだ」

「ならいいけど。命拾いしたね越谷さん。あ、越谷さんって胸大きいけどパッドか何か入れてる? 下品だからやめたほうがいいよ?」

「いえ……そのようなものは何も……」

「あはは! じゃあ生まれつき男を誘惑する下品な乳に育つ運命だったってことォ!? 尚のこと品がないね! まるで豚みたい! お兄ちゃんに変な匂い付けるなよなクソアマが」


 紗雪はそう言って自分の教室に戻って行った。


「越谷……?」


 ヒナは何も言わずその場で奥歯を噛み、不満げな顔をしている。


「アイツはちょっと気分で物を言うところがある。あまり真に受けるな」

「真に受けるとか……そういうお話ではないですよね?」

「越谷?」

「太陽さんは……もしあんなことを言われたのが私ではなく自分でも、そうやって冷静でいられるんですか……? 正直私は、とてもイライラしています……」

「……アイツは俺の奨学金を全額ギャンブルで融かしたんだ」

「え……?」


 ヒナは俺の顔を見て、言った。


「奨学金をギャンブルで……? え……? それってどういうことですか……?」

「今の俺は一文無しってことだ。家にある財産も全てギャンブルで溶けた。俺が名前を捨てたのは代償を支払うためだ。この妖刀エルグレコにな」


 俺はヒナにエルグレコを見せた。


「なんですか……この剣は……」

「俺の先祖の作ったアーティファクトだ。この剣には俺の先祖の血と意思と名が刻まれている。だが、近いうちにこれも質に出さなきゃいけなくなるだろうな……」

「この剣がもし別の誰かの手に渡ったら太陽さんの元の名前はどうなるんですか……?」


 ヒナの不安げな表情を見て、俺は溜息を吐いて言った。


「俺の名は……永久に失われる」

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