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変わり者神父の日常(夏)

夏休み創作チャレンジ2024(https://www.pixiv.net/novel/contest/summerchallenge2024)最後のお題。これで5つ! お付き合いありがとうございました。

あんま夏っぽくならなかったな……そしてそんなに狐面でもない(´・ω・`)


pixivにて2024年9月12日に投稿していたもの。

お題「狐面」



 どこにでもあるような田舎の端っこ、山の麓にこぢんまりとした教会がある。

 そこの神父は変わり者で、年中真っ黒なカソックにストラという聖職者然とした恰好で――何故か上半分の狐面をつけている。

 春も夏も秋も冬も。

 赴任してきた当時からなので誰も素顔を見たことがない。

 挙句、最近になって教会に住人がひとり増えた。悪魔だと噂だ。

 そんな変わり者の神父の名は狐塚ノア。見た目は二三十代の、若い男である。


「なー、魂くれよぉ~」

「はいはい、今日もいい天気ですね」

「話聞けってば」


 日課の教会周辺の掃除をと箒を持って教会前に立つノアの周りをうろちょろと、これまた変わった青年が歩き回っている。

 変わっているのは橙色の髪だけではない。その頭からひょこりと生えるのは獣の耳。

 髪と同色の細長いそれはキツネに似ていた。

 真夏だというのに毛先の白い襟巻をしているのも不思議な青年だ。年齢は中学生か高校生くらいに見える。

 彼の名前はマスカ。正真正銘の悪魔である。


「あ、吉田くんちのお母さん、おはようございます」

「話聞けぇー!」


 吉田くんちのお母さんは教会前でわちゃわちゃとする二人を見てにこにこと微笑ましそうに笑いながら会釈して通り過ぎていく。

 どうやら悪魔と言えど、勝手に魂を持ち去ることはできないとかで、こうして毎日騒がしくしているのが二人の日課のようなものになっていた。


「早くしないと夏休みの課題終わらないんだって~」

「そう言われましても、まだあと百年は生きるつもりですからねぇ」

「長ぇよ。長寿でギネス載るつもりかよ」


 軽口を叩きながらもノアは箒で教会の扉の前を掃いている。

 ころり、とひっくり返っていたセミが箒に当たって空元気で泣き叫びだした。


「ジジジジジジジジジジッ」

「おっと、まだ生きてましたか」

「ぎゃーっ、ムシ! 生きてる! ムシ!」


 慌ててマスカがノアの背に隠れる。

 セミはふらふらとしながらも勢いよく飛んでどこかへ去っていった。


「……悪魔なのに虫が怖いんですか?」

「地上のムシは小さいくせになんかいっぱいいてキモいんだよ! 悪魔界のムシはでかいからどこにいるかわかりやすいし倒しやすいけどさ」

「なるほど?」

「こんなムシがいるような場所に長くいたくないから早く魂よこせってば!」

「遠慮しまーす」


 そうこうしているうちに昼前になって、ノアはそろそろお昼にしましょうかと言いながら箒を片付ける。

 マスカは頭の上の耳をぴょこぴょこと動かしながらついてくる。


「お昼は素麺ですかね~」

「えぇ、また素麺かよー。もう飽きたぞ」

「なら食べなくてよろしい」


 ぶつぶつと文句を言うマスカを無視して教会に入ろうとしたところでバタバタと騒がしい複数の足音。


「仮面神父~!」

「仮面神父、見て見てー!」

「おや、元気なのが来ましたね」


 駆けて来たのは近所の小学生男児数名。

 いかにも虫取りに行ってきましたというような麦わら帽子にシャツに短パン、斜め掛けの虫かご、手には虫取り網という装備だ。

 教会裏の山をぐるりと回った先に小学校があるのでよく裏山で小学生たちが遊んでいるのを見かける。標高のある山でもないし、むしろ山というよりは丘程度のものなので親も勝手に遊びに行く子どもたちを特に注意することもない。


「デカいカブトムシ取れた!」

「おれはクワガタ取った!」

「仮面神父はカブトムシとクワガタどっちが好き!?」

「カブトムシ!」

「セミ!」

「クワガタ!」

「わぁ……聖徳太子じゃないんで一人ずつ喋ってくれます?」


 仮面神父というのは小学生たちからのノアのあだ名だ。某特撮ヒーローみたいだと言ったのは名付け親の吉田くん(当時小学一年生)である。

 なんだかんだでこの変わり者の男は地域に馴染んでいる。

 虫かごを押し付ける勢いで掲げている小学生たちの目線に合わせるように腰を折って、ノアはくるりと少年たちを見回した。


「また山に入ったんですね。誰か大人を連れて行きなさいって言ってるのに」

「おかんもなにも言わんからいーの!」

「それよりクワガタ!」

「はいはい、そろそろお昼だから一度おうちに帰りましょうね」

「カブトムシは!?」


 低学年の小学生男児たちだ。話を聞きやしねぇ。

 虫は平気だが別に好きでもない上にぼちぼちお腹が空いてきたノアは小さく息を吐いて思案する。

 あ、そうだ。と、背後から逃げるようにそろそろと遠ざかっていたマスカを指さす。


「マスカに聞いてみてください。彼の故郷ではそういう虫が珍しいそうですよ」

「ほんと?」

「カブトムシ見たことある!?」

「クワガタは!?」

「セミ!!」

「ちょ、おま、わぁぁぁぁっ!?」


 あっさりと男児たちは標的をマスカに変えて突撃していく。

 虫かごを持った子どもたちに囲まれた悪魔はすぐに逃げ道を失って青い顔で後退り、教会の壁面に追い詰められた。


「ねこ耳マスク、カブトムシ好き?」

「いぬ耳マスク、クワガタは?」

「犬でも猫でもねぇよ! いや、それよりムシ近付けんな!!」

「……さて、素麺茹でましょうかね」


 ノアはひとつ頷いて教会の扉に手を掛ける。


「おま、ノア! てめぇ!」

「悪魔でも無体な真似はしないんですね」

「決まりで直接手を下したらダメなんだよ! じゃなくて、ノア! おい、こら!」

「頑張ってくださいね~」


 ひらりと手を振るとマスカは泣きそうな顔をする。


「こ、こ、このっ、このアクマーーーーーー!!」

「それはあなたでしょうが」


 マスカの叫び声に釣られたセミが一斉に鳴き出して、悪魔は青い顔を更に青くする。

 悪魔に取り憑かれた神父はやれやれと肩を竦めて教会へ入る。

 扉越しにまた悲鳴が響いた。

 ノアの魂がマスカに持ち去られるのが先か、マスカが虫から逃げ出すのが先か、まだ夏は終わりそうになかった。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

感想・評価、よろしくお願いします!

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