声なき者の叫び~~ある男の演説~~
休日の昼下がり。男は木でできた台の上に乗り、道行く人々に対し、声を枯らし訴えかけていた。
「私のこの声は、君たちの大半には届くことのない声であろう。だが、私は君たちに言っておきたいことがある」
「戦争は悪だ!人間がこの世で行う上で、最も愚かしい行為だ!!」
「私は家族を守るため、隣人を守るため、街を、そして国を守るため、戦争に行った」
「だが、結局そのどれも守ることができなかった」
「想像してほしい。昼夜問わず爆撃を受け、爆風で飛び起きたら今まで仲良く、またはいがみ合いながらも共に過ごした戦友の、手足がちぎれているのを目撃した様を。その戦友たちが、うめき声を挙げて私に『殺してくれ』と頼む様を、、、」
「想像してほしい。目の前で共に新兵教育を乗り切った、戦友の頭が簡単に吹き飛ぶのを見た私の姿を」
「戦争なんかなければ、その者達は今でも家族と、隣人と、友達と、共に笑いあいながら生活をしていたはずだ!」
「けれども、戦争のせいで、その当たり前な日常は脆く崩れ去ってしまった」
「君たちは、戦争のニュースを見た際に、死者〇〇名、負傷者〇〇名といった情報をよく目にするだろう」
「君たちは人間を、人の生き死にを数字でしか見ていないから、戦争というものに実感がわかないのだろう」
「だが!その亡くなった一人一人には友達がいた!恋人がいた!!そして、守るべき家族がいた!!!」
「なぜその事実に目を向けない!なぜ、その一人一人に当たり前の日常があったということに目を向けないんだ!!」
「名誉の戦死という言葉を聞いたことがあるだろう。けれども、戦争が無ければ、戦争さえなければ、彼の、彼女の死に場所は本来そこではなかったはずだ!」
「ここまで言ってもなぜ聞こえないフリをする?なぜ私には関係のないことだと思える!?」
「もう一つ、私の体験を話そう」
「戦争後、私は愛すべき家族の元に戻った」
「しかし、家族は誰一人として五体満足な者はいなかった」
「私の街が、私の家族が、、、空襲を受けたからだ」
「私の愛した妻は骨すらも見つからず、私の愛した息子は空襲で右足を失ってしまった」
「戦時国際法なぞ、ただの条文でしかない。実際の戦争においてはなんの意味もなさない!実際、私の妻や息子は民間人なのに爆撃を受け、妻は死に、息子は夢を奪われてしまった」
「私の息子は10歳になる。私が戦争に行く前、息子は、将来はサッカー選手になると目を輝かせて言っていた」
「戦争は妻の人生を奪っただけでなく、私の息子の夢を奪っていったのだ!!」
「なぜなんだ!一体私が、私の家族が何をしたというのだ!!なぜ私と、私の家族の将来がこうも簡単に奪われなければならなかったのだ!!!」
「これだけ私が言っても、君たちの耳に私の声が届くことはないと分かっている」
「けれども私は!!これ以上私や、私の家族と同じ思いを君たちにさせないために、これからも声を大にして訴えていく!!」
「君たちが、幸せな将来に向かって真っすぐに進めるために、、、っ!!」
男は叫ぶように演説を続けている。
しかし、周囲の人間は誰も男の方へ顔を向けない。
男は誰に届いていなくとも、これからもその叫びを誰かに届けようとするのだろう。
戦争のない世界を願って、、、。
誰もが、幸せな未来を築くことができるように、、、。