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ポイドリーはなんでも知っている

作者: 紅鋼

これは小さな小さな魔法の村のおはなしです。


今日はハロウィン。村の子供たちは思い思いに仮装して、お祭り騒ぎ。

この村の中心には、樹齢が1000年以上の不思議な大木があり、シンボルとして村人を見守っていました。何でも、その木にはドーナツがなるという言い伝えがあるのです。でも、それはこの村の伝説で、実際にドーナツがなっているのを見たことがある村人はほとんどいませんでした。ある書物に、その木になったドーナツを食べた人が次々に死んでしまったという噂が残されていることから、その木はポイズンドーナツツリー、通称ポイドリーと呼ばれておりました。


メノウはこの村に住む6歳の女の子です。みんなと同じように仮装をして、村を歩いては各家を訪れ、カゴをお菓子でいっぱいにして帰ってきました。


「ママ、"トリックオアトリート"がこんなにたくさんのおかしにへんしんしたわ」

確かに、その呪文を唱えただけでお菓子がもらえるなんて、子供にとってはこの村に伝わるどんな強力な魔法より、よほど魅力的な魔法でした。

「あら、良かったわね。大事に食べるのよ」

メノウのお母さん、ヒスイは振り返って微笑みました。

「…いいえ、わたしこのおかしはいらないの」

「どうして?せっかくご近所にいただいたものでしょう?」

「うん…でもわたし、ドーナツがたべたい」

カゴの中はクッキーやチョコレート、キャンディなどで溢れかえっていて、揚げ菓子は入っていませんでした。

「それならママが作ってあげるわよ」

「ううん。わたしが食べたいのはポイドリーのドーナツ」


メノウは村の大木にドーナツがなる伝説を知ってはいたけれど、それを食べたら命を落とすという恐ろしい言い伝えまでは知りませんでした。ポイドリーのポイはポイズン、つまり毒のことです。そんなことを知る由もない彼女にお母さんはちょっと声をひそめて言いました。

「いいこと、メノウちゃん?ポイドリーのドーナツを食べたら、代わりに大切なものを失ってしまうのよ。もしなっているのを見ても絶対食べてはダメよ」

さすがに「食べたら死ぬ」と脅すのは良くないと思って、お母さんは優しい嘘をつきました。


「大切なもの…?」

いまいちピンと来なかったメノウは、夜ベッドを抜け出してポイドリーの目の前までやって来ました。その夜はとても風が強い夜でした。

見上げてみると、なんとそこにはドーナツがたくさんなっているではありませんか!

メノウは目を輝かせました。風がびゅうとひと吹きすると、雨のようにドーナツが降ってきました。メノウはそのうちの1個をうまくキャッチして、大きな瞳で見つめました。

「ほんとうになったんだわ…!」

でも、お母さんに言われたことを思い出して、一瞬考えました。

「(ママが、これを食べたら大切なものを失うって言ってた)」

でも、メノウの小さな手からはみ出るくらいの大きくて美味しそうな黄金色のドーナツがあります。

「(一口だけなら、いいよね)」


翌朝、人々が目の当たりにしたのは、穴の空いた揚げ菓子に埋もれた、少女の姿でした。お母さんは、世界で一番大切な、最愛の娘をポイドリーに奪われてしまいました。


ヒスイはラベリングの魔法使い、

メノウはミラクルの魔法使いです。

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