『罠-5』
昂平はその頃、多摩西署の留置所に留置されている愛美の面会に訪れていた。窓越しの愛美はとても柔和で優しい表情が印象的だった。
「風邪とかひいてませんか?」と昂平が会話の糸口を見出すかのように言った。
「大丈夫」
「……」
「……お父さんは?」
昂平は黙って、首を振った。
「昂平くんに一度、聞いてみたい事があったの……いい?」
「……何です?」
「お母さんって、どんな人だったの?」
「……」
「……ごめん。変な事聞いてごめんね」
「……すいません」
「……」
「……一言じゃ……」
「……」
「言い表せない」
「……そうよね」
「……すいません」
「……好きだった?」
「……さあ」と照れ隠しなのか、それとも本音なのか、昂平はそう答えた。
「愛してる」
「……」と昂平はドキッとした。
「お母さんは昂平くんをきっと愛してる」
「……」
「昂平くんが生まれた時からずっと」
「……」
「たとえ、どんな事があったとしても」
「……」
「きっと」と愛美が微笑む。
「……」
目の前の愛美の微笑と、母親の眞由美の懐かしい微笑が昂平には重なって見えて仕方がなかった。それは昂平が見たいと、会いたいと願い続けていた優しい母親の微笑であった。




