『罠-3』
昂平は部屋で一人、ある人が言った言葉を思い返していた。
「私があの子の身代わりになる」
「人の親なら誰でもそうすると思う」という愛美の言葉であった。
【身代わり……】
昂平の頭の中に一人の人間の顔が浮かんだ。
藤田であった。
【自分の死によって、自分の自殺によって、事件の全てを終わらせようとしたのなら……】
と、考えたところで、昂平はそれ以上は考えないようにした。真実と向き合うのがとても怖かった。自分の全てが、存在が粉々に破壊されていくようで怖かった。
その時、昂平はある人の声が聞こえたような気がした。その声は今まで何度となく聞いた事のある、とても聞き覚えのある声だった。
『昂平』
昂平が突然の頭痛に襲われたかのように苦しみだす。
『昂平……昂平……』
その声は紛れもなく、昂平の母親の眞由美の声であった。
昂平の頭の中に、ある光景が断片的にフラッシュバックしていく。
雪の降る夜。
(家の中で)倒れた人。
その倒れた人の辺りから鮮血が溢れる。
血に染まったナイフを手に呆然と立ち尽くす人影。
その人影が血に染まったナイフを力なく落とす。
その人影が真っ赤に染まった両手を見つめる。
その人影は……昂平である。
『……俺が……』
呆然と立ち尽くす昂平。
『……やったのか……』
『昂平』
とまた眞由美の声が聞こえた気がした。
昂平は頭を抱えて、耳を塞ぎ、必死に聞こえるはずのないその声を掻き消そうともがき苦しむのであった。




