『封印が解かれる時-6』
昂平は弁当が出来上がるのを待っていた。
今日は仕事終わりで、疲れたのか、家に帰ったらすぐ横になった。二時間ほどだろうか、眠ったようだった。それから、少し遅い夕食にと近所の弁当屋に買いに来ていた。
【ほとんど自炊はしない。自分が作っても大して美味くないし、面倒だからだ。かといって贅沢はしない。米はたまに炊く。スーパーの夕方以降の見切り品で値引きされている惣菜を買ったりすれば、かなりの節約にもなるし、米の量は自分の加減で炊けるので、大抵は腹一杯になるからだ】
「唐揚げ弁当の大盛りでお待ちのお客様」との弁当屋の店員の呼び声に、昂平が軽く手を挙げ、一歩前に出たのであった。
朋美が自動販売機を背もたれにして、携帯電話で話をしていて、
「だから、ごめん……もちろん、篤史の方が大事に決まってんじゃん……けどね……」
「ごめん、無理」と電話の相手の男はあっさりと答えた。
「無理って!?」と一応、聞いてみる。
今、こうして電話で話をしているのが何らかの理由で無理かもしれないと、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ朋美は思ったからだ。
「ほんじゃ、今までサンキュ」
「それって、別れるって事!?」
【聞くまでもない事は分かってる。もちろん分かってるが、聞かずにはいられないんです】
「そうなるんじゃん。んじゃ」と空しく電話が切れる。
「待って、篤史……」
【誰もが悲劇のヒロインに憧れる時がある。憧れなきゃ、やってられない時もある】
朋美が誰かの気配を察して、後ろを振り向くと、男が一人、こっちを見ている。
見世物じゃないと思った朋美は怒りが沸々と沸いてきて、その男を睨んだ。やっぱり根は勝気なのだ。
昂平が弁当の袋を手に立っていて、
「すごい音が鳴るから」とそう言って、昂平はペットボトルの飲み物を買った。案の定、それは大きな音を鳴らし、自動販売機の受け取り口に落ちる。
【そうか、そうですよね。私こそが迷惑なんだ】
「すいません」と朋美がさっとその場を離れる。
昂平は飲み物を受け取り口から取り、その場を去っていく。
『こうなったらアタシも飲もう』と朋美は隣立った自動販売機でビールを買っていく。何本も、何本も。
本日は自棄酒の夜は更けていく……であろう。