『復讐、そして、身代わり-3』
昂平はやがて、秋田県警からの任意出頭の要請を解かれた。警察署の前では桃が待っていた。
「……」と昂平が目礼をする。
「……」
「……」
「……嘘は嫌い」
「……」
「私は嘘は嫌い」
「……」と昂平は何も言わず歩いていく。
歩いていく昂平の背中に向かって、桃が、
「昨日は本当にありがとう」と頭を下げる。
昂平は振り返らず、立ち止まらず、そのまま歩いていく。
【嘘は嫌い。だから、私は嘘は言ってない】
桃にはある確信があった。昂平が午前一時過ぎに出て行くのを見た。その後、直ぐに眠ってしまった為、その後の昂平の存在をはっきりとは憶えていない。それでも桃は嘘は言っていないという確信があった。熱にうなされながらのおぼろげな意識の中でも、額に乗せられた濡れタオルが常に冷たかったという事をはっきりと憶えていた。あれは間を置かず、濡れタオルを冷やし、交換してくれないと、あのひんやりとした冷たさは保てないと桃はそう分かっていた。
例えば、一時間も間を置けば、額の濡れタオルは途端に熱を持ってしまう。そうなれば不快な私は必ず目を覚ますはずだ。昨日の夜はその感覚がまるでなかった。額の上の濡れタオルは常に冷たかった。
一時間も時間がないのに、この宿から事件のあった沢のほとりまで行き、人を殺し、また戻ってくるなんて事は時間的にも物理的にも絶対に不可能である。だから、昂平は犯人ではない。絶対に犯人ではないと確信してのアリバイ供述であった。




