『二人きりの夜-9』
桃は夢を見ていた。それは初めて見る夢だった。
【初挑戦の手作りチョコレートだ。とても楽しい。何回も味見を繰り返す。美味しい。このまま上手く出来るといいな。喜んでくれるといいな。やばっ、またドキドキしてきた。どうしよ……どうしよ】
桃は鼓動が高鳴るのを感じた。桃は目を覚ましていた。自分の顔というか、鼻先に、人の押し殺したような息を感じた。その時、桃はさらに鼓動が高鳴るのを感じた。誰かの唇が自分の唇に……触れたのを感じた。鼓動の高鳴りが相手に悟られないかとても心配だった。
昂平は眠っている桃の唇に触れるか触れないかというソフトなキスをした。胸が張り裂けそうな位、ドキドキして、心臓が激しく波打った。心臓の高鳴りで桃が起きないか心配だった。どうやら、昂平の心配は杞憂に終わり、桃は目を覚まさなかった。少なくとも昂平はそう思い、安堵したのであった。
桃はまたもや違う夢を見ていた。寄せては返す波。真っ暗な浜辺。その浜辺を桃が裸足で走っていく。誰かの背中、男の背中を必死に追いかけているようだった。それは恋人を追いかけるような甘い感じのムードではなかった。捕り物というか、憎しみの対象を追い詰めているかのようであった。誰を追いかけているかは分からない。が、見覚えのある背中だった。もしかして……と桃がある男……昂平の事を思い出した時、桃はまた眠りから覚め、ぼんやりと目を覚ましたのであった。
その時、桃は音を立てず、静かに部屋を後にしようとする昂平の背中を見た。桃は昂平が出て行ったのを見て、傍らに置いてあった携帯電話で時間を確認した。午前一時を過ぎていた。
【トイレにでも行ったんだろう……】
と、桃は深く考えず、またもや、うとうとと眠りに落ちてしまったのであった。




