『二人きりの夜-8』
昂平と桃は神社の高台に来ていた。そこの敷地からは見事なまでに秋田市内が一望出来たのであった。
「もう少し早い時間だったら、もっと街の照明とかで、いい眺めだったはずなんだけど……」と昂平が少し残念そうに言った。
この場所は以前、昂平が芽依と付き合っていた時に一度だけ、芽依に連れられてきた場所であった。芽依がどうしても自分が生まれた街や景色なんかを見て欲しいと昂平にせがんだ事があって、昂平は芽依と秋田に訪れ、この神社も芽依が嬉しそうに案内してくれた場所であった。
久しぶりに秋田を訪れた昂平はこの場所にどうしても来たかった。ここは芽依との思い出の場所だからであった。しかし、一人で来る勇気がなかった。一人きりでこの場所に来る勇気がなかった。昂平は桃がいてくれて、桃と一緒にこの場所に来る事が出来て、少しホッとしていた。自分一人だけで、この場所や芽依の思い出と向き合えば、きっと平静ではいられなくなるとそう思っていた。
昂平と桃は黙って眼下に広がる景色を見ていた。昂平は然して沈黙が気にならなかった。その時、桃が昂平の肩にもたれかかるようにしてきた。
昂平はドキッとした。昂平はドキドキしながら桃の横顔を見た。昂平は直ぐに異変を感じた。桃の顔は真っ赤で意識も朦朧としている様子だった。恐らく湯冷めをしたに違いない。昂平は慌てて、桃をおんぶして、神社の長い階段を駆け下りていったのであった。
宿に着き、医者に診て貰った桃は熱はあるが、安静にしていれば問題のないという状態であった。
昂平は桃の無事と、安らかな桃の寝顔を確認して、部屋を後にしようとした。その時、無意識なのか桃は昂平の腕をしっかりと掴んだ。
『一人にしないで』という桃の無意識の願いだったのかも知れなかった。
藤田が入院する病院では警察が厳重な警備体制を敷いていた。それにも増して、病院の医療体制はさも一国のVIPや要人にあたっているかのような、医療体制が敷かれていた。
朋美と別れた上村は病院に来ていた。
【絶対に死なせる訳にはいかない。事件の真相を語って貰うまでは、絶対に死なせる訳にはいかない】
上村は強い気持ちと信念で一刻も早い藤田の容体回復を祈っていたのであった。
昂平は桃の寝顔をずっと見ていた。そして、桃と初めて会ったあの雨の夜の事を思い出していた。
あの夜、初めて会ったとは思えない安らぎみたいな思いを桃には感じた。
昂平は桃と会い、ようやく救われたかのような気分になっていた。が、桃は刑事であった。自分が関わっている未司馬家一家殺人事件を追う刑事であった。
昂平はその事実を知った後も、桃を簡単に刑事だからと割りきって考える事が出来ずにいた。簡単に割り切る事が出来れば、どんなに楽だろうとずっと考えていた。
【愛情……違う。
好きという感情……それも、違う。
そうではない。
そうじゃない。
違う……違う……絶対に違う】
昂平は尚も眠っている桃の顔を見つめ続けたのであった。




