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『二人きりの夜-6』
【もう三回も温泉に入った。肌もスベスベだ。ご飯も美味しかった。お替りしもちゃった。卓球したいけど、さすがに一人では出来ない】
桃はそんな事をぼんやりと考えながら、宿を出ようとした。夜の温泉街でもぶらりと遊びに行こうと思っていた。
そんな時、思わぬ人とばったりと会った。昂平であった。桃が上村から貰った温泉の招待券は秋田の温泉であった。
「あっ……」と桃はそれ以上はもう言葉が出なかった。
「……」と昂平も非常に驚いた様子でこれまた何も言葉がなかった。
「……こんばんは」と桃が何とか挨拶をした。
「……」と昂平は目礼だけをした。
「……たまの休みだから、温泉でのんびりしようと思って」
「……」
「ちょっと暇だったんで、ぶらりとそのへんに……じゃあ」と桃がその場を去ろうとした時、
「もうこんな時間だとどこもやってない。やってるとしたら、飲み屋くらい」
「あっ、そっか」
「……」
「じゃあ、どうしよ」
「……良かったら、面白い場所があるんです」と昂平が言った。
「面白い場所ですか?」と桃が昂平の顔を今日、初めて真っ直ぐ見つめたのであった。




