『封印が解かれる時-5』
夜の八時過ぎ。朋美はまだ会社のデスクにいた。普通の会社ならとっくに定時で帰宅している時間だ。この会社にも定時はある。が、それはあってないようなものだ。定時に帰りたいとはこの仕事を始めた時から全く思わなくなっていた。それより、気がかりだったのが、最近、少しずつ友達が減ってきているように感じた。
『ごめん。今日も仕事』『週末は取材が入ってる』とそんな事ばかり言ってたら、そのうち誰からも誘われなくなっていた。
それでも平気と朋美には思える根性があった。朋美にはSの気質があった。男勝りなのかもしれない。そうでないと、こんな職場ではやってられない。やっていけない。
三宅が戻って来るなり、「ほい」と書類を朋美のデスクの上に置いた。
「事件の概要。事件に詳しい知り合いの新聞記者に頼み込んで、慌てて集めさせた」
「それなら……」
「上層部からOKが出た」
「やった」と朋美は喜んだ。喜び方もやっぱり男勝りだ。
「来週号から早速、キャンペーンを張る事になったから」と三宅は自分のデスクに座り、
「やってみるか?」
「……私がですか!?」
三宅は黙って頷いた。
「是非」
「そうと決まれば時間がない。これから忙しくなるぞ。恋人には当分、会えなくなる。覚悟しておけ」
「恋人なんていませんってば」と朋美ははにかんだ。
そのしおらしい表情とは裏腹に三宅の肩を思い切り叩いたのであった。