『二人きりの夜-3』
その日はとても良く晴れ渡っていた。それでも昨日までの雪が辺りを白く染めていた。
【東京ではこんなに積もらない】
昂平は辺りに積もった雪を一掴みし、そう思った。昂平は秋田に来ていた。掴んだ雪がとても冷たかった。心の中も凍ったように冷たかった。
昂平は生駒芽依が亡くなったという突然の知らせを藤田が入院する病院で聞いて、秋田まで来ていた。
昨夜、通夜で何も喋らなくなった、目を閉じたままの芽依と哀しい対面を果たしていた。
芽依に金を渡した時、芽依は心底ホッとしたように昂平には思えた。いきなり幸せとはいかないまでも、当座の不安からは解放され、束の間でも安らかな生活を送っているのだろうと昂平は思っていた。そんな芽依が亡くなった。死因は睡眠薬を大量に摂取しての自殺という事だった。
昂平は絶望の淵を彷徨うかのような気分だった。もう少し、自分が何とかしてあげられれば、芽依を救ってやる事が出来たのかも知れない。金だけでなく、心の奥底にある、秘められた悲しみや不安な思いなどを読み取ってあげられる事が出来たとしたならば、芽依は自ら死を選ぶような事はなかったかも知れない。昂平は芽依が亡くなったと聞いてから、そんな事を自問自答してばかりであった。
身近な人の立て続けの自殺。藤田は命を取り留めたが、芽依は亡くなった。何れもどうする事も出来なかった己の無力さに昂平は自分がもどかしく、腹立たしかったのであった。
【人はやがて死ぬ時がくる。永遠に生き続ける事は出来ない。人はいつもこうやって突然の別れにうろたえ、嘆き悲しむ事しか出来ない。人は勉強をしない。学習をしない。大切な人と永遠の別れを何度と繰り返してみたところで、やっぱり、人はやっぱり、突然の別れにうろたえ、嘆き悲しむ事しか出来ない。そんな極めて愚かな生き物なのかも知れない】
昂平は芽依の告別式に参列した。芽依が結婚していたという芽依の夫にも初めて会った。名前を生駒涼といった。特に会話を交わすような事はしなかったが、会った感想としては『芽依がこんな人を好きになるんだ』というのが率直な感想だった。自惚れでも何でもなく、芽依の夫は自分とは正反対の少し軽い感じの、今風の言葉で言えばチャラい感じの男であった。まあ、人を外見で判断するのは良くないとそれ以上は深く考えないように昂平はしたのであった。
桃は宿の部屋から広がる景色を眺めていた。真っ白な銀世界であった。真っ白な世界が澱んだ心を澄ましてくれるようで、吸い込まれそうな白い世界に心の底から安らぎを感じるのであった。
【温かい温泉に入ろう】
桃は上村に到着の報告とお礼の電話を入れて、その足で温泉へと向かったのであった。




