『二人きりの夜-2』
桃と上村は以前も二人で来た大衆食堂に来ていた。桃は予定通りというか、案の定、ミックスフライ定食を頼んでいた。
「美味しい」と桃が満面の笑みを浮かべる。
「非番の前の夜なのに呼び出してすみません」と上村が言った。
「別に予定もないし、ぐっすり寝過ぎて、ちょうどお腹も空きましたから」と桃が笑顔で言った。
「それなら安心しました」
「上村さんにいつか聞いてみたい事があったんです」
「何です?」
「上村さんて、どんな人にも基本は敬語で話しますよね!?」
「そうですか?」
「そうですよ」
「どんな人でも、どんな人にでも自分にないものを持っています。その人から何かを学べるかも知れません。教えて貰う事もあるかも知れません」
「私にも?」
「もちろんです」
「……犯罪者にも!?」
「もちろんです」と上村がきっぱりと答える。
「すごい」
「そんな事はありません」と上村が少し照れる。照れ隠しか、上村がすっと話題を変えるように、
「そういえば新しい事実が分かりました」
「新しい事実!?」と桃が箸を止める。
「藤田は末期の肝臓ガンで、余命があと一ヶ月もなかったそうなんです」
「えっ?」
「藤田には医師からの余命宣告はなかったらしいんですが……」
「……」
「何らかの事情で藤田が己の余命を知った可能性は十分にあります」
「それを悲観しての自殺!?」
「そうかも知れません。何れにしても、意識の回復を待って、事情聴取します」
「はい」
「ところで、明日は何をするんです?」と上村が桃に聞く。
「特に……お昼過ぎまで寝て、適当に録り溜めしておいたドラマとかを見てたら、あっという間に一日が終わっちゃいます」
「もし、良かったら」と上村が一枚の封書を渡す。
「何です?」
「見てみて下さい」と上村が言う。
桃、封書の中を見てみて、
「温泉の招待券」
「明日、お休みなら行ってくるといいです」
「温泉か……」と桃が招待券を見ながら言う。
「きっといい気分転換になりますよ。明後日は午後からですよね!?」
「はい」
「二、三時間程度の口裏合わせなら任せて下さい」と上村が微笑む。
「ありがとうございます」
「ところで、最近、ドラマって、何か面白いのやってます?」と桃と上村の他愛もない会話は、それからも続いていったのであった。




