『ある人の死-8』
昂平と上村は病院の屋上にいた。昂平は屋上に張られた高いフェンスを見て思った。
【あのビルもこんな感じだったら、絶対に止められたのに】
「どうして、お父さんは今頃になって自殺なんか……」と上村が言った。
「……」
「死なせませんよ」
「……」
「絶対に」
「……」
「死なせませんから」と上村が自分にも言い聞かせるように言った。
その時、昂平の携帯電話が鳴った。
少し遅れて上村の携帯電話も鳴った。
昂平も上村も携帯電話に出る。
昂平と上村にもたらされた情報は全く一緒だった。
それは、藤田が何とか命を取り留めそうだという情報であった。
「……良かった」と上村が呟く。
「……」
その時、またもや昂平の携帯電話が鳴り、「もしもし……」と携帯電話に出る。
「えっ!」と言ったきり昂平は絶句してしまった。
上村はその昂平の様子を見て、何らかの異変を感じた。
昂平が電話を切ると、
「どうかしました?」と上村が聞く。
「……」
「何が……」
「……死んだ」
「えっ! ……誰が?」
「……」
「誰が亡くなったんです?」と上村が昂平の体を揺すって聞く。
「……」と昂平はまたもやそれ以上は何も答えないというか、答えられなかったのであった。




