表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートビター  作者: そらあお
72/152

『ある人の死-4』

 藤田は今日も病院で検査を受けていた。

担当の医師から、極々普段通りに、

「これも服用して下さい」と今まで飲んでいた薬とは別に新しい薬を渡された。


「これって……」と言いかけたところで、藤田は止めた。


「……」と藤田はじっとその新しい薬を見つめ続けたのだった。



 藤田が通院している病院の入り口が見渡せる道に桃と上村が乗る車が停まっていた。


 藤田が病院から出てきたところで、桃と上村は車を降りて、藤田の背後から、

「藤田さん」と上村が声をかける。


「……」と振り返った藤田は二人に目礼した。


「どこかお悪いんですか!?」と上村が聞いた。


「いえ、特に……」と藤田は言葉を濁したまま、

「失礼します」と二人に頭を下げ、その場を後にするのであった。



 護が代表を務める法律事務所はM&M法律事務所といった。護はルックスも良く、人当たりも爽やかな為、時折、テレビにも出るなど、かなり評判の売れっ子弁護士であった。


 護は苦労の人だった。護が高校生の頃に母親が病気で亡くなった。それに悲観したのか、酒浸りになり無気力になった父親はやがて、母親の後を追うように自殺をして死んだ。

 その頃、二人兄弟の兄の勝は高校を卒業して、東京で自活していたが、高校生だった護は親戚の家をたらい回しにされた。その頃から将来は弁護士になりたいと夢見ていた護であったが、今の経済状況では難しいと、高校を卒業したら、兄と同じく就職でもしようと考えていた矢先、兄の勝が、護の就学心を知って、『金なら俺が何とかするから、大学に通え』と後押しをしてくれた為、護は大学に入学が出来、その後、司法試験にも通り、晴れて弁護士にもなれたのであった。

 そんな護は兄の勝にはとても感謝していた。兄としてだけでなく、親代わりとして、兄の勝には世話になりっぱなしだった。それが故に勝にとっては義理の息子とはいえ、ただ一人取り残された昂平に対して、人一倍の愛情を持って、これまた親代わりとして、精一杯サポートしてきたのも、必然の行動であったのかもしれない。


「先生、お客様です」と相変わらず場違いな色気を醸し出している護の秘書が、護に向かって言った。


「そんな予定……」と護が少し驚いたように秘書の方を見た。秘書の後ろに上村の姿が見え、すぐに状況を理解できた護が、

「……お通しして」と秘書に向かって言った。


「突然、すいません」と上村が桃と共に入ってくる。

「お忙しいところ、申し訳ありません」と上村が一応、恐縮したように言う。


「あまり、時間がないもので」と護が腕時計に目をやり言う。


「やっぱり、いい時計してますね」と上村が言うと、


「いえ……」とさっと腕時計をしている左手を隠すように護が答える。


「この前、テレビ、出てましたよね」と上村が言うと、

「私も観ました」と桃も言った。


「ごめんなさい。本当に忙しいんです」と護が少し苛立ったように言った。


「一つだけ、聞いて宜しいですか?」と上村が言った。


「どうぞ」


「M&M法律事務所って……Mは未司馬のMですよね? じゃあ、もう一つのMって?」


「それは……」と一瞬、護が答えに詰まる。


「名前は護さんですよね!? そのMじゃ」と桃が言う。


「あっ、そうですよね」と上村も納得する。


「安直で申し訳ない」


「……」と上村は護の表情の細かな動きにまで、しっかりと目にやったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ