『ある人の死-3』
昂平と愛美は店が終わった後、二人で居酒屋で食事をしていた。店が終わった後の愛美は少し別人のようだった。まだ、店のテンションを引きずっているのか、やっぱりいつもの調子で明るさを押し出しはするものも、時折見せる、寂しげというか、疲れたというか、そういう表情を見せる愛美の仕草に、
【やっぱり気を張ってるんだ】
と、昂平は素直にそう思うのだった。
「……私、子供が一人いるの」と愛美が突然、そう言ってきた。
愛美位の年齢だったら、子供の一人位はいるだろうと、昂平は然して驚きもしなかった。
「今は別々に暮らしてるんだけどね」
「……」
「離婚してね」
「……」
「お腹を痛めた自分の子供だもん。絶対に自分で育てたかったんだけど……」
「……」
「私、こんな商売しか出来ないでしょ。裁判になったら、全然ダメで……親権は別れた夫の方に持っていかれちゃった」
「……」
「でね……三ヶ月に一度だけ……」
「……」
「最初は月に二回。そして、一ヶ月に一回になって……少しずつ、数が少なくなって、今は三ヶ月に一度だけ会えるの」
「……」
「中学三年生の男の子で、今年、受験なの」
「……」
「なんかすごく頭の良い学校を受験するみたいで、今は最後の追い込みで必死に受験勉強をしているみたい」
「……」
「でね……」
「……」
「高校生になったら……」
「……」
「もう会わないで欲しいって、別れた夫に言われたんだ」
「……」
「別れた夫は二年前に再婚したんだけど、息子がなかなか新しい母親に懐かなくて困っているからって」
「……」
「もう過去とは違う新しい生活が始まってるから、遠慮してくれないかって」
「……」
「来月、受験が終わったら最後……」
「……」
「最後に一回だけ会って……」
「……」
「……きっと、それでお終い」
「……」
「ごめんね。暗い話、しちゃって」
「いえ」
「ごめん、ごめん。そんな暗い顔しないで」と愛美が精一杯の笑顔を見せる。昂平も愛美の今までは見た事のなかった暗い一面を思いながらも、これまた出来る限りの笑顔を見せるのであった。
【人は悲しい時、涙を見せる……そして、人は悲しい時、時折、大袈裟に笑ったりもする】




