『ある人の死-2』
昂平はラーメン屋の仕事を終え、その夜、家には帰らずにある場所へと向かった。その場所はスナック『M』であった。馴染みとなりつつあった昂平を愛美やママの美弥子は明るく迎えてくれた。
「ウーロン茶で」と昂平が言った。
「飲まないの!?」と愛美が少し残念そうに言った。
「すいません」と昂平が申し訳なさそうに言うと、
美弥子が、
「大丈夫よ。愛美は飲まないお客の相手をするの、得意になったから」と少し冗談めかして、フォローを入れる。
「そう、そう」と愛美が手を叩いて嬉しそうに笑う。
「昔はね、相手が素面だって思うと、何だか私自身も弾け切れないっていうか、乗り切れないっていう部分もあったんだけど、最近、この店を気に入ってくれて、毎日のように遊びに来てくれるようになったお客さんが全く飲めなくてね。いや、本当は飲めるみたいなの。でも、何だか飲まないようにしてるとか、ここでは酔いたくないとか、何か言ってたけど、兎に角、お酒を一滴も飲まないお客さんがいてね。そのお客さんの相手をしてたら、案外、平気じゃん、悪くないじゃんって思うようになったの」
昂平が「へえー」と適当に相槌をうってると、
愛美もそれに敏感に気が付いたようで、
「話が長くてごめん」と昂平に謝る。
「長いー」と美弥子もすかさずちゃちゃを入れる。
「いえ」と昂平も恐縮する。
「でも、そういえば最近、来ないね」と美弥子が言うと、
「そうね」と途端に愛美も残念そうな表情を浮かべる。
昂平は愛美が言っていた酒の飲めないというその男はきっと、普通に仕事でも忙しいのだろうと思った。
美弥子が、
「そうだ! これ、この前の写真」と一枚の写真を愛美に渡す。
「アハハ」と写真を見た愛美が豪快に笑う。
昂平が覗き込むようにその写真を見る。が、よく見えなかった。愛美と美弥子とおどけた格好のお客の一人が映っている写真だという事は何となく分かった。
「これ」と愛美が昂平に写真を見せる。
「……」と写真を見た昂平の動きが止まった。
「……どうかした?」と少し心配そうというか、不思議そうに愛美が聞いてきた。
「いや、何でもないです」と昂平はすっと写真を愛美に返す。
一曲のカラオケがかかり、
「私、私」と愛美が立ち上がり、マイクを手に歌い始める。
昂平は愛美の歌う歌に合わせて、無意識に手拍子を刻むも、心の中は先ほど、愛美に見せられた写真の中に映っていた男の事でいっぱいであった。




