『封印が解かれる時-4』
墓地では、上村が『未司馬家』の墓石の前で合掌をしようとするが、護が帰ろうとするのを見て、
「お帰りですか?」
「……」
「今日の月命日で……とうとう……あと二ヶ月になってしまいました。あと少しで十五年になります」
「……」と護が上村に再び、目礼だけをし、その場を後にする。
「……」
上村は歩いていく護の後ろ姿にじっと目をやるのであった。
昂平は板金工場で働いていた。作業着がこよなく似合い、この前の夜のように一晩で数十万を散財するような人物には一見しては見えなかった。
朝の八時から夕方の五時。最近は不況のせいか、残業はほとんどなく、時折、定時前に終了なんて日もある位だった。が、昂平には然したる不満もなく、社会や政治に対して、ましてや職場に不満を抱くなんて事は皆無に近かった。
今まで昂平はなかなか仕事が長続きしなかった。新聞配達、ホテルの客室清掃、鳶見習い、警備員、テレホンアポインターなど、かなりの仕事を経験したが、どれもこれも長続きはしなかった。まずは基本的に接客など対人相手の仕事は元から敬遠していて、仕事自体は上手くいったとしても、職場の対人関係で揉め事を起こして辞めたというのも多々あった。人付き合いが苦手。何を考えているか分からない、正しく他人から見れば、昂平はそんな感じであった。
この仕事を始めて二年。昂平にとってはこの仕事場は非常に居心地が良かった。社長の佐藤有が面倒見が良く、それでいて、余計な事に口出しをせず、プライベートには干渉しないというタイプの人間だった為、昂平にとってはとてもやり易いというか、働き易い職場であった。最近は板金の仕事に対して、やりがいというのも少しずつだが、持ち始めていた。