『正月の出来事-3』
昂平は部屋で一人、正月を過ごしていた。特に何処にも出掛ける事もなく、たまにふらりと近所のコンビニなどに買い物に出掛ける程度だった。
今日は隣の部屋も静かだ。恐らく故郷に帰ったのか、もしかしたら、二人で旅行にでも行ってるのかもしれない。昂平がそんな事をぼんやりと思っていた時、頭の中に一人の女性の事を思い出していた。
芽依であった。芽依にお金を渡してからは何の連絡もなかった。別に連絡が欲しいとかは思ってはいなかった。
あの夜、昂平は芽依にお金を渡した後、芽依を東京駅まで見送った。特別な感傷があった訳ではなかったが、やっぱり去っていく芽依の姿を見た時、ふと寂しさを感じる自分がいた。
世界中に何人、何百人、何千人……それ以上の人が生きていたとしても、自分の事を分かってくれる、お互いを分かり合える人間なんてそうはいない。そんな数少ない大切な人との別れに何も感じない人間なんていない。昂平も例外なく、そのへんの陳腐で単純な言葉では言い表せない切ない思いを抱えながら、去っていく芽依を見送ったのであった。
【どうかもう泣かないで……お願いだから、幸せになって下さい】
昂平は心の底からそう思っていたのであった。
そんな時、昂平の部屋のチャイムが鳴った。
【……誰だろう?】
昂平は玄関の扉を開けた。玄関の外には藤田が立っていた。
「よお」と少し気まずそうに藤田が言った。
「……」と昂平は無言で藤田を部屋の中に入るように促した。
「仕事……」
「……」
「……辞めたんだって?」と藤田が徐に聞いてきた。
「……」
「……無くなったっていう金のせいか?」
「……」と昂平は否定しなかった。
「どうして……お前は何も……」とそれ以上は藤田も何も言えなかった。
「何か飲む? ウイスキーならあるよ」と昂平が話題を変えるかのように藤田に聞いた。
「……悪い。少し貰えるか」
「今、用意するから適当にそのへんに」と藤田に適当な場所に座るように促す。
昂平がウイスキーのお湯割りを藤田に差し出した。
「悪い」と藤田が酒に口をつけ、
「温まる」とホッとひと息ついたように藤田が言った。
「……」
藤田がもう一口酒を飲み、
「やっぱり美味い」としみじみと言った。
「最近、あまり飲んでねえんだ」
「……」
藤田が胸の辺りを触りながら、
「医者に止められててさ」
昂平は『どこか悪いの?』、『何かの病気?』とかそういう質問は藤田にしなかった。
それを藤田も察したかのように自ら、
「どうやら肝臓が悪いらしい」
「……」
「……でも、うめえ」
「……」
「沁みるな」と藤田は飲んでいた酒をぐいっと飲み干した。




