『押し入れの中の秘密』
『押入れの中の秘密』
上村はまだ、クリスマスイブの出来事を引きずっていた。それでも、哀しい思いをし、家族を、プライベートを投げうってまで奔走してきた悲願の事件解決に向けて、十五年目の冬になる。寒い冬は果たして終わるのか、暖かい春は果たしてやってくるのか……上村はもう一度、自分自身に渇を入れたい気分だった。
【こんな事ではいけない】
上村は思い切り冷たい冬の真水で顔を洗った。
自分を引き締めるかのように。
刑事としての自分を再確認するかのように。
週刊ツイセキ編集部は未だクリスマス、いや早めの正月かのような盛り上がりだった。
三宅が朋美など編集部員たちに向かい、
「本日、社長賞が出た」と金一封が入っていると思われる祝儀袋を高々と誇らしげに掲げ、さらに朋美に向かい、
「MVP、こっち」と朋美を皆の前に呼ぶ。
「いいですよ」と一応、朋美は恐縮しつつも、もちろん満更でもない様子で、皆に背中を押され、前へと出ていく。
「俺がヒーローインタビューします」と川村が適当にその辺にあったボールペンか何かをマイク代わりにして、朋美に向かい、
「感想は?」
「私だけでなく、みんなで勝ち取った社長賞です」と殊勝なコメントを言う。その言葉を聞いた部内が更に沸き立ち、
「この喜びを誰に伝えたいですか?」と川村の即席ヒーローインタビューは尚も続いていくのであった。
昂平はアパートの部屋で無料の就職情報誌をその気もなしに、ただ、パラパラと捲っていた。ようやく退職から数日が過ぎて、事の重大さには気が付くようにはなった。が、特に差し迫った緊迫感はなかった。
【なるようになる。あせっても仕方がない】
昂平は見ていた就職情報誌を閉じた。取り敢えず、年末年始はゆっくりして、年明けから動き出せばいいと思っていた。
昂平が無職になっても慌てない理由が実はあった。その秘密は所々、襖紙の破れた押入れの中にあったのであった。




