『クリスマスプレゼント-2』
昂平と佐藤が会社の名ばかりの社長室で話をしていた。
「分かりました」と昂平が小さく頷いた。
「すまない」と佐藤は昂平の目を見ずに言った。
昂平の退職が決まった。盗難騒ぎの責任を取ってという事だった。形的には依願退職。これはせめてもの佐藤の温情というか、精一杯の謝意の気持ちだったのかもしれない。
昂平はそのまま、会社の裏口から工場を後にした。今日は誰とも会わない方がいいだろうという、これも佐藤の配慮からであった。
この年の瀬も押し迫っての退職。
人が笑い、街が華やぐクリスマスイブの退職。
普通の人間なら立ち直れないほどのショックを受けるのかも知れなかったが、昂平は不思議と平静でいられた。
昂平は元来、完璧主義者である。板金の仕事も、ひいては学生の頃の宿題や課題、部活動での練習など、何もかもを完璧にこなさないとすまない性格だった。曖昧や適当が一番嫌いだった。自分がこうと決めた事は常に満点を求めた。が、完璧主義者は時として、自分が思い描くレールを外れた時、案外、あきらめも早い。
昂平は小さい頃から、父親の愛情を知らず育ち、人に対して、何かを期待するという事をしなくなった為、あきらめという観念は常に持ち合わせていた。
昂平はこの状況下になってまで、佐藤板金にしがみついていたいとは思わなかった。逆に、盗難騒ぎがあり、それに父親の藤田が関与しているかもしれないという事が分かった時点で、こういう結末が来るのが予測出来たし、そうならなくても、自分からそう幕引きするしかないと、どこかで考えていた。仕事を突然失うという不安よりも、自分の思い通りにならなかった事に対して、直ぐにでも、リセットしたいという気持ちの方が勝っていたのかも知れない。
リセット。
この行動や思いは昂平に常につきまとっていた。思い通りにいかない事はすぐあきらめる。投げ出す。それが故、仕事も長続きしない。それが昂平の性格というか、今まで生きてきた上で、昂平がしてきてしまった事であった。