『クリスマスプレゼント』
『クリスマスプレゼント』
その日は街も人も賑わうクリスマスイブだった。残念ながらというか、本来は喜ぶべきなのか、ホワイトクリスマスは期待出来なさそうな、雲一つない快晴だった。
昂平はいつも通り、工場に出勤すると、すぐにいつもとは違う雰囲気を察した。
刺すような目で全員が昂平を見てきた。
「おはようございます」と昂平はいつものように挨拶をした。が、それに対して、皆からの挨拶らしい挨拶はなかった。
その代わりに吉嶋が昂平に向かって、
「やっぱりお前だったのか」といきなり藪から棒に言ってきた。
それでも、昂平には何の事を言っているのか、すぐに理解は出来た。
【工場で無くなった金の事を言ってるに違いない】
昂平はすぐに社長の佐藤に目をやった。佐藤は昂平と目が合うか、合わないか位の瞬間、さっと昂平から視線を外した。
昂平はその佐藤の態度も何となく理解は出来た。
【きっと皆にというか、この吉嶋に問い詰められたのだろう】
「俺は一昨日、社長とお前が会うのを見ていたんだ」と吉嶋が唐突に言ってきた。
昂平と佐藤のやりとりを店の外から見ていたのは、吉嶋だったのだ。
「それはね……」と佐藤が何とか弁解をしようとするが、吉嶋を筆頭とした皆の雰囲気がそれを許さなかった。
佐藤板金の経理を任されている女性が昂平に聞いてきた。
「本当に昂平くんなの?」
「違います」ときっぱりと昂平は答えた。
「じゃあ、どうして、金を社長に渡した?」と吉嶋が聞いてくる。
「……」
昂平は何も答えられなかった。
「金を盗ったのは昂平じゃない」と弁解するように佐藤が言った。
「じゃあ、誰が?」とすぐさま、吉嶋が聞いてくる。
「誰って……」とそれ以上に関しては佐藤は口ごもってしまった。
「社長」と吉嶋がさらに問い詰めようとしたところで、
「すいませんでした」と突然、昂平が頭を下げた。
「やっぱり」という吉嶋のしたり顔と、
「昂平……」という佐藤のそして、昂平に好意を寄せてきたであろう同僚数人の落胆した表情が非常に対照的であった。
「真っ赤なお鼻のトナカイさんは……」という朋美の鼻歌だった。朋美はトイレで用を済まし、手を洗っているところで、自然と鼻歌を口ずさんでいた。
朋美は森篤史と別れた後、劇的に短期間で新しい恋人を見つけたわけではなかった。それどころか、色恋の話は停滞しきったままだ。今日はクリスマスイブの為、そういう意味ではジ・エンドなので、決して鼻歌など口ずさめる陽気ではなかったはずだった。
朋美のテンションをアップさせていたのは、先日、発売されたばかりの最新号の週刊ツイセキの売れ行き、反響がすごいという事によるものだった。
「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る……」とトイレを出る頃には、朋美の鼻歌は二曲目に達しようとしていた。