『もう一つの別の家族の悲劇-3』
週刊ツイセキ編集部では夜にも関わらず部内会議が行われていた。
出席者は朋美、三宅、川村の三人。皆、資料を見ながら着席をしていた。どこかいつもとは違う重苦しい雰囲気に包まれていた。
その中で朋美が口を開いた。
「未司馬家一家殺人事件には、もう一つ、謎というか、重要な核となる側面の出来事がある」
「謎?」と川村が朋美に聞いた。
「殺害された未司馬家だけでなく、もう一つの別の家族に起こった悲劇」
「坂西家」と三宅がぽつりと言った。
「坂西家……事件当日、未司馬昂平を泊めたっていう友達の家ですよね!?」
「そう。長男の坂西将一郎が未司馬昂平と同じ中学校に通う同級生で、事件当日、昂平を家に泊めたと証言している」
「中学生の証言なんて、当てになるんですかね?」
「もちろん、それだけじゃ弱い。が、同じ証言を父親の坂西紀一、母親の坂西李果もしている」
「それが本当なら完璧なアリバイ」
「未司馬昂平はずっと坂西家には居たんでしょうかね!? こっそり抜け出したとか……確か、未司馬家と坂西家って……」と手持ちの資料を見ていく。
「片道、5分とかからない」
「ですよね」
「片道、5分」
「往復では10分」
「犯行が例えば、15分として……合わせて25分、多く見積もっても30分あれば犯行が可能という事になる。30分なら、コンビニでちょっと買い物だとか、適当な理由で外出すれば、ごまかす事が出来るかもしれない」
「無理だ」と三宅が言った。
「どうしてです?」
「よく資料を見てみて」
川村が資料に目を通していき、
「……あっ!」
「そう」
「犯行時間は……」
「10分や20分では済まない」
「家族の死亡推定時刻」
川村が資料を見ながら、
「母親の眞由美だけ、他の三人より殺害されたのが一時間近くも遅いんだ」
「つまり、どう少なく見積もっても、犯行に一時間以上はかかる計算になる」
「そっか」
「それに、事件後、警察の捜査に対して、坂西将一郎、紀一、李果の三人共が、事件当日、未司馬昂平が外出する事はなかったと証言している」
「やっぱり完璧なアリバイじゃないですか」と川村が落胆する。
「……ここまではな」
「ここまでは?」
「事件後、何年か経ってから、父親の坂西紀一がマスコミに対して、その証言を翻すコメントをした」
「どうして、いきなり?」
「恐らく、息子、将一郎の突然の事故死がきっかけだったんだと思う」
「坂西紀一が証言を翻す一ヶ月前に、息子の将一郎が交通事故……バイクを運転中に横転して死亡した」
「……」
「悠現社はその坂西紀一の証言を元に大々的なキャンペーンを張った」
「たった一つ、崩せなかった壁……」
「未司馬昂平のアリバイの壁を突き崩せそうになったものだから、悠現社は昂平犯人説に躍起になった」
「……」
「……が……」
「……」
「坂西紀一は突然の病に倒れ……亡くなった」
「……くも膜下出血だったみたい」
「……そんな」
「警察も坂西紀一に対して、近日中にも正式に事情を聞こうとした矢先の出来事だった」
「坂西将一郎の事故死と坂西紀一の病死」
「そして……もう一人、証言可能な母親の坂西李果は……」と朋美と川村はお互いの顔を見合わせるのであった。
李果が入所する介護ホーム『ひばりの苑』では職員たちが血眼になって、駆けずり回っていた。李果の姿が見当たらなくなっていたからだ。
職員の一人がここにはいないだろうと、ある意味、可能性を消去する為に確認に訪れた施設の屋上に李果はいた。
「坂西さん、こんな時間に一人でこんな所にいちゃ、ダメじゃない」と子供を諭すように職員が言った。
李果は悪気の無さそうな表情で、子供のように無邪気に微笑むだけだった。