表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートビター  作者: そらあお
22/152

『二人の父親-4』

 玄関近くに無造作に立てかけられた傘。

あの夜、桃が昂平に差しかけてくれた傘だった。


【刑事……】


ありきたりの例えならば、砂漠の中のオアシス……もっと言うならば暗闇の中の一筋の光。その位の衝動を昂平は桃に感じていた。


【それが……刑事だった】


あと二ヶ月で……事件から十五年になる。

昔だったら、それで時効になる。


【終わりなく限りない……】


その時、昂平の携帯電話が鳴った。

昂平が携帯電話の着信相手を確認した。知らない番号からであった。


「……もしもし」と昂平は電話に出てみた。


「……もしもし」


聞き覚えのある声だと昂平は直ぐに思った。


昂平は玄関近くに立てかけてある傘を見つめた。


電話の相手は桃であった。


「平井です」


「……」


「今、アパートの近くにいます」とそう言うと、直ぐに電話は切れた。


「……」


昂平は玄関近くに立てかけてあった傘を手にアパート前の通りに飛び出した。


昂平の目の前にいたのは、あの日、傘を差しかけてくれた桃であった。


刑事ではない、あの日の桃であった。


少なくとも、昂平はそう思いたかった。


「……こんばんは」と桃がか細い声で言った。寒さに震えていただけじゃなかった。


「……こんばんは」と桃と同じ位、小さな声で昂平が言った。


「……」


「……傘」と昂平が桃に差し出す。


「……」と桃は傘を受け取らなかった。


「あの時から……」


「……」


「……知ってたの?」と昂平は聞いた。


桃は静かに頷いた。


「……じゃあ……刑事として」


「それは違う」とすぐさま桃が否定する。


「じゃあ、どうして?」


「……それは……分からない」


「分からない?」


「……分からない」


「……」


「……失礼します」と桃が走り去る。


昂平はただ、走り去る桃の後ろ姿を見つめた。小さく、姿が見えなくなるまで。桃が差しかけてくれた傘を手に。


【分からない……それ以外、言葉は見つからない。目的は何だ?】


激しく揺れる胸の高鳴りを昂平は抑える事が出来ずにいた。



 【分からない……それ以外、言葉は見つからない。どうして、電話をかけたんだろう? どうして、家の近くまで行ったんだろう?】


桃はまだ激しく揺れる胸の鼓動を抑えきれないでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ