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『事件のあらまし-3』
【今日も定時の五時。不況の年の瀬に仕事があるだけでも有難いのかも知れない】
昂平は同僚や社長の佐藤に挨拶をして、職場を後にしようとした時、工場の表で上村と桃が立っていた。
「未司馬くん」と上村が声をかける。
「……」と昂平は桃を見た。
昂平にはすぐ分かった。あの時、雨降る中、優しく傘を差しかけてくれた人。
「……」と桃も昂平を見た。
【刑事……だった】
昂平はショックというか、絶望に近い感じだった。あの人が刑事……だった。
昂平は居たたまれないように何も言わず歩き出した。
上村もすかさず昂平の後を追い、
「仕事、お終いですか!?」
「……はい」
桃も昂平と上村の後を追うが、
上村が、
「今日も一日、お疲れ様でした」と急に立ち止まり、昂平を見送る形になった。
「いいんですか?」と桃が聞くも、
「……署に帰ったら、その後、飯でも食べに行きませんか?」
「……」
「捜査の相棒として」と敬礼する。
「はい」と桃も嬉しそうに敬礼を仕返したのであった。