『事件のあらまし-2』
【あまり刑事ドラマは見ない。刑事になるまで、知り合いの刑事とかもいなかった。だから、先入観とかは全くない。だけど……この人、本当に刑事? ……のほほんとしてるし、凄みはないし、こんなんで大丈夫っていう感じ】
そんな事を上村が運転する車の助手席に座る桃は考えていた。
暫しの無言が続く中、上村が口を開いた。
「ポーズ」
「坊主?」
【止めた方がいい。あなたに坊主は似合わない】
と桃は思った。
「ポーズ」
「ポーズ!?」
「フリ。努力はしていますよというフリ」
「?」
【全く理解出来ない。文脈がない。自分のキャリアを自慢する訳じゃないけど、やっぱり大学位は出た方がいい】
「君」
「私がですか? いきなりひどくないです?」
【カッカしてきた。暑い。暖房を止めて下さい。窓を全開にして下さい。もしかして、このおじさんにケンカ売られてる?】
「違う、違う。あなたがっていう意味じゃないです」
「じゃあ……」
【だよね、だよね。あなたに私の何が分かるって言うの? ちゃんちゃらおかしいんですけど。少し落ち着こう。大人なんだし。頑張れ、私】
「自分からこの捜査に加わりたいって、志願したんですよね?」
「はい」
「どうしてです?」
「どうしてって……理由は特にありませんけど」
「捜査本部は体よくあなたを利用した」
「私を?」
「事件解決に向けて、捜査の人員を増やしました。警察は精一杯、努力はしていますよというポーズ」
「……そういう事ですか」
【それでポーズね。理解に時間がかかる。私が理解に手間取るのは、私の頭の回転が鈍いんじゃなく、あなたのボキャブラっていうか、説明不足ですから。どうぞ】
「何の役にも立たない新米のあなたでも、警視庁からわざわざ呼び寄せた、人員を増やしたって言えば、少なくとも対外的には事件解決に向けて、努力はしているっていう事にはなります」
「……」
「何の役にも立たないは言い過ぎですか」
「……」
「少なくともこうやって話し相手にはなってくれています」
「……」
「それだけでも感謝しなくちゃいけませんかね」
「あのう……」
「あからさまに言い過ぎましたかね」
「話し相手を募集してるなら、他をあたって下さい。私は事件解決に向けて、捜査がしたいんです」
「……」と上村は返す言葉がなく。
桃、そのまま眠る。いや、眠ったフリをする。
【ポーズ。これが正しくポーズ。狸寝入り。ドキドキした。言った、言ってやった。やばっ、ちょっと言い過ぎた?】と桃はチラッと運転する上村の様子を薄目を開け、窺ったのであった。