『家族の温もり-4』
停留所をバスが発車していく。その車内には桃の姿があった。今日は非番だった桃はある場所を目指していた。
桃が吊り革に掴まり、立っていた。近くの席に一組の家族が座っていた。歳は三十歳代前半位に見える父親と母親に、小学校低学年位の兄に、まだ幼少の妹。父親と兄、母親と妹の並びで、前後二席ずつ座っていた。
兄妹のどちらかが後ろを振り向いたり、どちらかが後ろから突付くなどして、とても和気あいあいとした雰囲気であった。桃はその光景をぼんやりというか、とても穏やかな表情で眺めていたのであった。
【私にもあんな時代があったっけ……子供の頃は訳もなく窮屈に感じた。早く大人になりたいとそんな事ばかり考えていた。大人の自由と、子供の自由とは全く別物だと思っていた。それはきっと間違いじゃないだろう。
明日も大人……明後日も大人。一年後も、いや、これからずっと大人のまま。もう子供には戻れない……もうあの頃には戻れはしない】
バスが次の停留所に着き、停車した。そのちょっと前というか、車内に次の停留所のアナウンスがされるなり、家族の兄と妹が競うように、降車ボタンを押していたので、この家族がこの停留所で降りるのは、桃には分かっていた。
幼い兄妹が父親と母親に手を引かれて、ゆっくりとバスを降りていく。それと同時に乗客の半数近くがこの停留所で降車した為、車内は急にガラガラとなり、桃はさっきまで家族が座っていた、きっと体温だけではない温もりで温かいシートに腰を下ろしたのであった。
歩道を歩く昂平が携帯電話で、
「また、家の鍵を貸して欲しい」と言った。
M&M法律事務所では護が電話で、
「……鍵!? ……分かった」と答え、電話を切ったのであった。




