『家族の温もり-2』
昂平は自分のアパートへ帰るなり、藤田が遺した袋の中を開けてみた。
美弥子が言った通り、アルバムとカセットテープ……そして、生命保険の証書……更に藤田から昂平へ宛てた手紙が入っていた。
生命保険の受取人の欄には『未司馬昂平』と書いてあった。額にして五百万。さほど高額な保険ではなかったが、藤田の気持ち、藤田の生活を思うとそれは決して安易な気持ちで受け取れるようなものではなかった。
父親の思い、子を思う親の思い……藤田もきっと人並みの父親になりたかったのかも知れない。父を知らずに育った昂平も不幸なら、子を知らずに生きてきた藤田もきっと不幸だったのかも知れなかった。
昂平は同じく藤田が遺していったアルバムを捲っていた。その中には若い頃の藤田と眞由美、幼児期の昂平が写っていた。父親がいて、母親がいる。その二人の真ん中に自分がいる。昂平には愛しい光景であった。その頃の、写真の中の光景は全く記憶になったが、安易に想像が可能な、極々ありふれた幸せや笑顔、幸福や喜びがそのアルバムの中にはいっぱい詰まっていた。
昂平はカセットテープを古いラジカセの中に入れた。最近はラジカセを全く使ってなかったが、こうやって取っておけば、使い道は訪れるものだ。世間はエコだ、整理だと安易に捨てたがるが、捨てたらそれでお終い、もうこれきりなんて寂し過ぎる。こうやってまたラジカセを活用出来た事を、感謝する昂平であった。
カセットテープの中にはある人の声というか、やり取り、生活風景のようなものが録音されていた。昂平は聞き進めていくうちに、このカセットテープの中身が、先ほどまで見ていたアルバムの光景にリンクする事に気がついた。泣き叫ぶ赤ん坊の声。戸惑ったように必死で赤ん坊をあやそうとする若い父親の声。父親の助けの声に応じて、父親よりは手馴れた感じで赤ん坊をあやしていく若い母親の声。昂平は記憶にない、でも懐かしい世界にタイムスリップしたかのようであった。昂平はいつまでもその世界に浸っていたかった。現実の世界より遥かに居心地がいいと感じた。甘い匂いのするそんな優しい世界だった。ほろ苦い現実とは比べようもない、穏やかな音色の流れるような、そんな優しい世界であった。
昂平は最後に藤田からの手紙の封を開けた。
『昂平へ
手紙なんか、久しぶりに書くから
何を書いたらいいか分からない。
昂平は今は体重は何キロ?
身長は?
あんなちっちゃかったお前が……
昂平、ごめんな。
昂平には申し訳なく思ってる。
お母さんにも申し訳なく思ってる。
自分のせいで、二人を不幸にしてしまった事
本当に申し訳なく思ってる。
だらしなくて、みっともなくて
カッコ悪い父親だった。
最後に一つだけ
佐藤板金で金が失くなった事
あの日、あの時、俺は
金が入った封筒を見つけ、手にした。
喉から手が出るほど欲しかった。
でも、戻した。
取ってない。
信用してくれ。
駄目な父親で本当に本当にすまん。
こんな男にはなるなよ。
父親より』
昂平は手紙から目を離した。
【久しぶりに……何十年かぶりに会った時……でっかくなったなあって……照れくさそうに少し見上げたあの表情……憶えてる】




