『悲しみバレンタイン-9』
桃の部屋では先ほどの、どうして両足のアイススケート靴の色がこんなにも違うのかという朋美の質問に対して、桃が回答をしようとしていた。
「私、本気でオリンピックを目指していた時があったんです」
「アイススケート!?」
「はい」
「小学校六年の冬に交通事故に遭って、その夢はあきらめたんですけど」
「……そう」
「でも、それって言い訳や単なる口実に過ぎないんです」
「……」
「ただ単純に私には才能が無かった」
「……」
「この前のオリンピックとか世界大会に出てた子と一緒に練習した事もあるんですけど」
「すごい」
「全然、すごくないです。すごいのはその人たち……私は全然ダメでした」
「そんな……」
「交通事故に遭う、一ヶ月前か、二ヶ月前位に……」
「……」
「どうしようもなく、自分の才能のなさに気がついた私が……もういいやって、どうにでもなれって、このスケート靴を……川に投げ捨てたんです」
「片方だけ!?」と汚れた黒い方のスケート靴を朋美が見て言う。
「……はい……そうしたら……」
「……」
「偶然通りかかったお兄ちゃんの友達が……冬の寒い川に……寒さなんて気にせず、結構汚いって有名な川だったんですけど……川に飛び込んで、流されそうになったこのスケート靴を拾ってくれたんです」
「すごい」
「ダメだよって、いつもはめったに笑わないのに、その時だけはにこって笑ってくれたんです」
「カッコいい」
「はい」
「……もしかして、その人が初恋!?」
「はい」
「クールなんだ!?」
「そうですね」
「素敵」
「私……その人に、バレンタインデーに思い切って、チョコレートをあげたんです」
「やるう」
「厳密にはお兄ちゃんに渡して貰ったんですけど」
「恥ずかしかった?」
「……それもあるけど、さっき言ってた……交通事故にバレンタインデーの一週間前に遭っちゃって、バレンタインデーの日は入院してたんです。手作りのチョコも作れなくて……」
「そういう事かあ……で、どうだったの?」
「……」
「……ダメだった?」
「……恐らく」
「恐らく?」
「その人、私が退院する頃……もう三月になる頃には引っ越しちゃったんです」
「えっ? ……何の返事や挨拶もなく?」
「……はい」
「酷い」
「……」
「悲しいね……」
「……はい」
「初恋なんてそんなもんだよ」
「……」
「切なくて……」
「……」
「甘くて……ちょっとほろ苦い」
「……」
「そんなチョコレートみたいなもんじゃない」
と朋美がちょっと大人な、お姉さんぶった発言をしたのであった。
「さすが朋美先輩」という桃の一言がさらに朋美のお調子ぶりを加速させていくのであった。




