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『悲しみバレンタイン-8』
昂平はその頃、スナック『M』を訪れていた。愛美が言っていた、父親の藤田が預けたというコインロッカーの鍵を受け取りに行ったのであった。
昂平は自分では暇な時間帯を見計らって、店を訪れたつもりであったが、今日は満席で、昂平の予想以上に店は賑わっていた。昂平は一時間近くカウンター席の端で待っていた。
漸くひと段落した美弥子が来て、
「お待たせしてごめんね」と謝る。
「いえ」
「藤田さんから愛美が預かったコインロッカーの鍵よね!?」
「はい」
「……ごめんなさい。それがないの」と美弥子が表情を曇らせて言った。
「えっ?」と昂平が驚きの表情を見せる。




