『悲しみバレンタイン-7』
桃の部屋では桃と朋美がくつろいだ様子で酒を飲んでいた。
「さっきのおでん屋の親父、失礼しちゃうわよね」と朋美が眉間にほんの少し青筋を立て、思い出したように言った。
「何かありましたっけ?」
「これとこれよ」と朋美が食べていたおでんの具の中のはんぺんと昆布を差して言う。
「はい、はい」と桃が思い出したかのように大笑いする。
「お姉ちゃんは肌が白いからはんぺんをサービスって」と朋美が桃を見て言う。桃の襟元などから覗く肌は確かに白い。
「君は昆布って」
「アハハ」と桃が大笑いする。
朋美が昆布をパクリと食べ、
「軽く出がらしで、どうせ黒いわよ」と不貞腐れる。
袖を捲くった朋美の肌は……確かに白くはない。
「はんぺんは半分こにしましょ」
「もうあそこの店は止めようね」
「そうですね」と桃が笑みを浮かべる。
「桃ちゃんってさ、恋人いるの?」
「いませんよ」
「好きな人は?」
「……いませんよ」
「少し間があった」
「ありませんよ。じゃあ、朋美先輩は?」
「恋人!?」
「はい」
「…………いない」
「思いっきり間がありましたけど……じゃあ、好きな人は?」
「いない」と朋美が即答する。
「早い」
「イエイ」と朋美が親指を立てる。
決して、誇れる、威張れるところではないのだが。
「今はお互い仕事を一生懸命頑張らなくちゃいけない時なんですよ、きっと」
「そうだよね」
「はい」
「何だか酔っ払ってきた。よし、桃ちゃんの恋愛遍歴に繋がるようなもの見つけてやろう」と朋美があちこち部屋を物色し始める。
「止めて下さいよ」と桃が朋美をブロックしていく。
「これって……」
「……」
「スケート靴!?」
「……はい」
「桃ちゃん、アイススケートやってたの!?」
「小学校六年までですけど」
「へえ、知らなかった……でも……」
「……」
「随分、色が違うね」と朋美が言った。
アイススケートの両足の片方が汚れなどで黒ずんでいて、もう片方が新品のように白く、とても対照的であった。
「どうして?」と朋美が単純な疑問からそう聞いた。
「……」と桃は直ぐには答える事が出来なかったのであった。




