『罠-10』
昂平はアパートに戻ると、思い切り冷たい水で何度も何度も顔を洗った。事情が許すのなら思い切り叫びたいそんな気分であった。息が切れて、倒れるまで走り続けたいそんな気分であった。もう心が折れる寸前であった。もうボロボロだった。訳もなく涙がポロポロと溢れてきて、止まらなくなった。昂平は子供のように泣いた。昂平は大人の泣き方を知らなかった。だから、昔の、あの頃の子供のように泣いたのであった。
桃と上村が藤田の病室に駆けつけた。今日は警察が仕組んだ作戦の為に、藤田は部屋を移っていたのであった。藤田は意識は回復したが、ほんの少し喋れる、相手の声に反応するようになったという程度だった。
医者からも無理は禁物との注意も出ていた。
「藤田さん、教えて下さい」と上村が問いかける。藤田ははっきりとではなかったが、上村の問いかけに反応した。
「あなたが犯人じゃありませんね?」との上村の問いかけに、藤田が二度ほど微かに首を振る。
「本当の事を言って下さい」との上村の問いかけに、尚も藤田が何度となく微かに首を振る。
「息子さんが……昂平くんが自供しましたよ」と上村が藤田に問いかける。
「上村さん」と桃が上村を止めようとする。
上村のその問いかけに藤田が激しく反応し、呼吸が激しく乱れていく。
上村が尚も、
「藤田。本当の事を言うんだ。お願いだから言ってくれ」と横になっている藤田の体を揺する。今までの温和な上村とは別人のように激しく藤田を詰問していく。
「上村さん、止めて下さい」と桃などが上村を必死で止める。
心電モニターの数値や波形が激しく乱れて、「先生を」と病室内が大混乱に陥った。
「……」
その間中も上村はパニックというか、平静を取り戻せないでいたのであった。




