『罠-7』
夜になって一段と寒さが増してきていた。
桃と上村が、藤田が入院している病院近くの道に車を停め、車内で待機していた。
「まだ特に異常はありません」と無線で報告が入り、「了解です」と上村が無線で返答する。
「動きはありますかね?」と桃が聞く。
「あるはずです」と上村が自分でもそうあって欲しいと念ずるかのように答えた。
「……」と上村の横顔を桃が見て、何かを言いたそうにするが、言えない様子で、それでも意を決したように桃が、
「上村さん……」
「何です?」
「やっぱり……」
「……」
「こういうのは止めにしませんか?」
上村は優しい笑みを浮かべ、
「歴史って、好きですか?」
「……苦手じゃないけど、あまり得意でもないです……それが?」
「織田信長にしろ、豊臣秀吉にしろ、徳川家康だってそうです」
「……」
「あの人たちは、何百人、何千人……いや、もしかしたら、何万人という人々を殺したかも知れない。数限りない、謀略や術数を廻らせて」
「……」
「それでも、今の時代も変わらず英雄なんです」
「……」
「人はきれい事ばかりでは生きていけない」
「……」
「時として、大義の為には汚い事も良しとして、己に言い聞かせなくちゃならない時もある」
「……」
「どうしても……」
「……」
「真実が知りたいんです」
「……」
「今は方法を問うている場合じゃない」
「……」
「やるしかないんです」
「……すみませんでした」
「……」
「私にはまだまだ覚悟が足りません」
「……いいんです」
「……」
「どちらが真っ当かなんて、答えは分かってるんです」と上村がまた優しい笑みを浮かべる。
その時、無線から「怪しい人影が病室に向かっています」との報告が入る。
続けて「どうします?」との問いに対し、
「まだです」と上村が無線を使って指示する。
少し経って「人影が病室に入ります」との無線報告が入る。
「まだ……まだです」と上村が無線を使って指示する。
「病室に入りました」との無線報告が入る。
上村がゆっくりと左手で拍子を取るかのような動きをして、1、2、3……と数えていき、GOサインと同時に「確保です」と無線を使って指示をする。
その頃、朋美と川村がゲームセンターで遊んでいた。二人でカーレースゲームをしていた。画面いっぱいの「GO」の文字と共に、二人は一斉にアクセルを踏み込むのであった。




