『封印が解かれる時-7』
【新聞は毎日読む。どんなに忙しくても必ず読む。が、気になる記事だけ。後は読まない。いつだったか時間がある時に試しにいつもは素通りする記事も我慢して読んではみた。が、右から左である。だから、すっぱりと読まない事にした】
上村の新聞の読み方はこうだ。今日も上村が朝刊を読んでいた。日付は十二月十五日。
「おはよう」と石井晋作が出勤してくる。
上村は見ていた新聞をちょっとずらして、
「おはようございます」と形なりの挨拶をする。
石井は上村にとって年下の上司である。が、上村は気にしない。やり難さはもちろんあるが、上村には端から上昇志向がない。出世意欲がない。現場大好き。現場と言っても、上村の職業は鳶や左官などの職人ではない。そもそも、鳶や左官に課長はいないはずだ。上村は多摩西署・刑事課の刑事であった。事件がない朝は平穏である。だから、のん気に新聞も読んでいられるのだ。
石井が上村の席に来て、
「昨日の月命日は?」
「……行ってきました」
「そう……平井くん。平井刑事」と石井が部屋の入り口の方を見る。
桃が来て、石井が上村に向かい、「事件からもうすぐ十五年になるにあたって、捜査の人員を増やす事にしたから。警視庁から来た平井刑事だ。面倒を見てやってくれ」と言うなり、自分の席の方に行ってしまう。
「平井桃です。宜しくお願いします」
【見た目は新卒OL。いや、就活女子大生。刑事には到底見えない】
それが上村の桃に対する第一印象だった。