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『手の温もり』
『手の温もり』
町も人と共に年を取っていく。住宅街は尚の事である。この辺りは二十数年程前、自治体のキャンペーンをきっかけに新興住宅街として、多くの人々がこの町に移り住んできた。その頃は多くの子供達で溢れかえっていた。
町も景色も人と共に年を取っていく。あの頃の子供たちは大人になった。やがて、子供たちはめっきり少なくなっていた。行き交う人々の活気や元気が少しずつ薄れていった。
見た目、四、五歳位の男の子が母親に手を引かれて、住宅街の長い坂道をゆっくりと歩いていく後ろ姿。
時折、お互いを見やりながら、ゆっくりと坂道を上っていく。
あの手の温もり。
見上げた時にいつも優しく微笑んでくれた。
いつも、いつの時も……あの手の温もりが、生きる道標だった……