8母
いつもありがとうございます
それからあっという間に半年が過ぎ、弘人と美祈の同棲生活はとても順調だった。
毎日学校から帰ると、三日に一度一緒に近くのスーパーへ買い物に行き、買ってきた食材で手早く夕食を作る。明日の朝ごはんとお弁当に入れる常備菜を時々余分に作りながら、食事を済ますと、一緒に勉強した。二人の志望校は、教師を目指している弘人と、法律の勉強がしたい美祈の二人の希望が同時に叶う、地元の大学だった。そこなら今住んでいる家からもとても近いので、引っ越しする必要もなく、今の生活を続けることができる。毎日二人で夜遅くまで勉強して、その後は一緒にお風呂に入り、一緒に寝た。同棲が学校にばれることも全くなく、二人の秘密の生活は続いていった。
そんなある土曜日、珍しく美祈がデパートへ行こうと提案してきた。
デパートなんて、高校生には敷居が高くて、一人暮らししてからは行ったこともなかった弘人は戸惑ったが、美祈にどうしても、とお願いされて首を縦に振る。
「今日はね、ヒロ君に会わせたい人が来てくれてるの」
いつになく嬉しそうな美祈の言い方に、弘人も幸せな気持ちになる。
「誰?俺に内緒の彼とかだったりして?」
わざといたずらっぽく返してみると、美祈もふふふ、と微笑む。
「見てびっくりしないでね。私のお母さんが来るの」
「そう、お母さんか」
少し安堵しながら、身支度を整え始める。美祈の母親に会うとなると、きちんとしていかなければならない。こういうのは最初が肝心だ。
何を着て行こう?と弘人は考えた。やっぱり初対面は、お洒落な私服よりも、学生らしく制服がいいかもしれない。
そう思いつくと、学校の制服に袖を通して、髪を整える。
しかし、何で今、お母さんなのだろう?
確か美祈は父親が遠方にいるから、一人暮らししていると言っていたけれど、母親のことは全く聞いたことが無かった。
その日のお昼前、緊張した面持ちでデパートへ入ると、二人は待ち合わせの雑貨屋さんの前に立った。美祈も弘人に合わせて、高校の制服を着ている。雑貨屋さんのガラスの扉越しに中を覗くと、何人かいる女性客の中に、母の姿を見つけた。
「お母さん」
美祈が呟いて、手を振ると、何とその女性は美祈の声が聞こえたのか、すすっと店の中へと二人を手招きする。
「行こう、ヒロ君」
美祈に促されて、弘人も店の中へと続く。
可愛らしい生活雑貨やアクセサリー、服が並ぶ広い店内に二人が入ると、美祈が母と呼ぶ女性は、笑顔で近寄って来た。
「こんにちは。初めまして、美祈の母です」
そう言って会釈した顔を見て、弘人はどきっとする。
若い…どう見ても、二十代半ばにしか見えないのに、この人が美祈の母親らしい。
嘘だろう?!
弘人は何度も母親の顔を凝視しながら、心の中で憶測した。
美祈は十六歳だから、お母さんは三十五歳だとして…いや、どっからどう見ても、三十五歳には全く見えないけれど、いったいどういうことだろう?
久しぶりに母に会って嬉しそうにしている美祈をよそに、弘人は突然の出来事に、混乱していた。
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