6優しい光の中で
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その夜、不思議な夢を見た。
夢の中でよく似た二人の少女が微笑み合っている。二人とも、まるで天使が着るみたいな真っ白でふんわりした裾の長い服を着て、ふわふわと空を飛んでいた。
一人は綺麗な長い髪を靡かせる、大人びた顔立ちの少女、もう一人は、肩くらいの長さに切りそろえられた髪にくりくりした大きな目の、可憐に微笑む見覚えのある少女。
その少女の顔を見た時、亨は思わず目を見開いた。
「未花ちゃん!!」
少し前に忽然とアパートから消えた、大切な女の子。
将来、必ず守ると心に誓った、最愛のひと。
「未花ちゃん、どうしていなくなったんだよ?どこへ行く気だよ?!」
しかし亨が必死で叫ぶ声が聞こえるも、未花は少し悲しそうに微笑むだけで、何も言わない。
たった一人地上に立つ亨は、長い髪の少女と仲良さそうに手を取り合って、光の方へ飛んで行く未花を、ただ見送るほか無かった。
「行こう、未花」
長い髪の少女に促されて、未花も覚悟を決めたように頷く。
「うん、美祈ちゃん」
まるで双子の姉妹ような二人は、そのまま優しさの満ちる光の渦の中へと消えて行く。完全に光に吸い込まれる瞬間、ふと未花は亨に微笑んだ。
―亨君、必ず私は亨君に会いに行くから。だからその時まで、待っていてね。―
「未花ちゃん!!!」
待ってよ、と叫ぼうとするが声が出ない。亨はなす術もなく、眩い光の中に消えていく未花の姿を、涙を流しながら見送った。
それからの亨は、人が変わったように自暴自棄になった。
飲めないお酒もたくさん飲むようになり、普段やらないパチンコもしてみた。スポーツジムで運動したり、ゲームをやり込んだり、教師の仕事に専念するふりをしたり、色んなことを試したけれど、未花を忘れることはとてもできないまま、月日だけが過ぎていった。
やがて、仕事にも慣れ、未花と過ごした日々を少しずつ心の奥に封じることを覚えると、表向きは何事も無かったかのように、普通の大人として暮らせるようになった。
就職して十五年目の春、家から少し遠い街の中学に、転勤の辞令が出る。
正直、未花との思い出の残る、住み慣れたアパートを変わるのは嫌だったが、これもいい機会だと思い、引っ越しした。
慣れない校長室の扉を開けると、そこに、自分と同じ転勤してきた教師が所在無げに数人いた。年配の女性が一人と、男性が一人、そして若い女性と、自分と同年代の男性教師が一人。男性教師は亨の顔を見ると、にこやかな笑顔で会釈した。
「中田先生ですよね?初めまして、私、甘川って言います。宜しくお願いします。どうやらご一緒させてもらうみたいで」
「そうなんですか?こちらこそ、よろしくお願いします」
緊張しながら返事を返すと、亨も微笑む。
そして、亨は三年五組の担任になることを聞き、生徒の名簿を受け取ると、早速学年主任が難しい顔で一人の生徒の名前を指さした。
林田瑞希と書かれてある。
女の子か、と亨が目を上げると、学年主任は表情を変えず続けた。
「この生徒は昨年度の終わりに来た転校生でね。ちょっといろいろ難しい子なんですよ。まあ、副担任が甘川先生ですから、二人で上手くやってください」
「はい、頑張ります」
亨は返事をしながら、その女子生徒の名前に、何とも言えない胸騒ぎを一瞬感じて、否定した。
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