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彼女の消えた、春。  作者: 日下真佑
15/23

15 お揃いのリップ

いつもありがとうございます。

今日もどうぞお楽しみください!

 瑞希の体調は、少しずつ悪化していた。

気丈で痛みに極端に強いお陰で、毎日学校へは行けたけれど、一時間教室に座っているのがやっとだった。食欲不振で給食も殆ど食べられないし、家でやろうと計画だけ立てる勉強も、全く手に着かない状態だった。それでも病院の先生にこのことを話すと、信じられない、とびっくりされた。何故なら、瑞希のような状態の患者さんの殆どは、もう病院の緩和ケア病棟で一日中寝ているのが普通だからだ。しかし瑞希は、病院ではつとめて何ともないように振る舞って入院を回避し、美祈や未花のために登校した。勿論、二人では到底耐えられる体調ではないので、授業などの学校生活や登下校をするのは瑞希で、弘人や亨と直接関わる時だけ、美祈や未花と交代した。

 痛みを紛らすために、毎日夕方になると母と近くのカフェに出かけた。お気に入りの紅茶を飲み、隣の雑貨屋さんとドラッグストアで文具や小物、化粧品を見るのが楽しみだった。ふと、可愛らしい花柄のプリントされたリップを手に取る。

これ、可愛いな。同級生でメイクをしている子も多いし、気晴らしに口紅デビューするのもいいよね。今までリップグロスとか色付きリップは使ったことがあったけれど、ちゃんとした口紅をつけたことはまだ無かった。

ちらっと母を見ると、洗剤や食品を選んでいる。瑞希は財布を開くと、手持ちを確認した。こっちへ転校してから、友達と遊びに行くこともないので、三千円程入っている。

私は、どの色がいいかな?

可愛らしい雰囲気だけれど、きりっとした目元の顔を鏡に映して、淡いピンク色のリップを合わせてみる。顔がぱっと華やかになって、びっくりする。

これ、いいな。私はこれにしよう。そう決めると、美祈と未花の分も選んであげることにした。気分転換にもなるし、何よりもし、これから二人が弘人や亨と出かけることがあったら、絶対に必要だと思った。他にお小遣いの使い道も無いので、二人に一本ずつ口紅をプレゼントすることにした。

美祈ちゃん、未花ちゃん、リップお揃いしようよ?私がプレゼントするから。

そう話しかけると、二人が喜ぶのが分かる。

瑞希はそっと鏡の前で美祈と交代すると、一瞬できりっとした目元は少し大きめの色っぽい目元に変わった。

そうね、じゃあ私はこの赤っぽいのがいいな。

美祈は雰囲気そのままの深紅に近い赤い色を選んだ。

じゃあ、次は未花ちゃんね。

そう言って、再び意識を集中させると、色っぽくて伏目がちだった目は、ぱっちりと大きくクリクリした可愛らしいものへと変わる。

未花ちゃんが一番お母さんに似てるんだよね。そう思いながら、未花の顔に合うリップを選ぶ。この顔にはちょっぴりコーラルがかった、オレンジレッドという色がしっくりきた。

 瑞希は自分に戻ると、三本の可愛らしい口紅を手に、こっそりレジへ向かった。日用品を物色している母に内緒でお会計を済ますと、さっと商品をトートバッグに入れて、何事も無かったかのように母の所へ戻る。

「瑞希、何か欲しいものある?」

ジュースや紅茶の棚の前で母に聞かれて、瑞希は棚を覗き込む。

「じゃあ、ミルクティーとコーラ」

「いいよ」

頷くと、母はミルクティーとコーラ―の二リットルのペットボトルを籠に入れた。


 買い物が終わると、二人はいつものカフェでお茶をして、その日は珍しくファーストフードで夕食を食べた。窓際の席に座りながら、外を見る。昨年までいた雪国と違って、家が密集した都会の郊外の街並みが、とても冷たく感じられて妙に虚しい。オレンジ色に染まる空を飛ぶ鳥の群れを目で追っていると、そう遠くない未来に自分も空へ還るのだと、ふと思った。

悲しくはない。誰だって、いつかそうなるものだから。ただ、美祈と未花はどうなのだろう?

大切な人と出会ってしまった二人も、この体が消滅したら、人生を終える。それは、やっぱり…。

と、考えていた時、ふと目の前に亨が歩いて行くのが見えた。

中田先生!!

難しい顔をして、買い物にでも行くのだろうか?隣のドラッグストアに入って行くのを確認して、瑞希は立ち上がった。

「お母さん、友達見つけて用事があるから、ちょっと行って来る。ここで待ってて。隣のドラッグストアだから」

「分かった。遅くならないようにね」

「うん」

返事をすると、瑞希は急いでファーストフードを飛び出し、ドラッグストアに駆け込んだ。正直走ると体中が爆発しそうに痛い。でも、こんなチャンスは二度と無い。

ドラッグストアに入ると、急いで亨を探した。缶酎ハイを物色しているのを見つけると、瑞希は未花に体を渡す。

「亨君…」

小さな声で呟くと、未花は勇気を出して、亨に近寄った。

「先生…亨先生」

可愛らしい声で呼ぶと、亨は驚いて目を見開き、未花を見た。

いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

また、評価を頂きまして、ありがとうございます!大変励みになります。

これからも続けていきますので、どうぞよろしくお願い致します!

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