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彼女の消えた、春。  作者: 日下真佑
13/23

13わかれ道

いつもありがとうございます。

不思議な物語、続きます!どうぞお付き合いください!!

 嘘だろう…亨は愕然とし言葉も出ない。

忘れられない、最愛の彼女にそっくりな少女が、余命一か月の癌だなんて!!

いや、この子は…林田瑞希はただの生徒だ。未花ちゃんと似た顔をするのだって、きっと他人の空似だ。その証拠に、瑞希はいつも未花ちゃんみたいな顔をするわけではなく、時にクールな、時に妙に色っぽい表情まで色んな顔をする。こんな表情は未花ちゃんには無かった。だからきっと、この子は小坂井未花ではない。

そう無理矢理言い聞かせるも、やはり納得できず、亨はどうしたらいいのか全く分からなくなっていた。

ただ一つ言えることは、途方もなく悲しいという感情がどうしようもなく辛いこと。

また、大切な人が自分の前から消えようとしている。

未花がいなくなってから、何とか気持ちを誤魔化して生きて来たけれど、未花のことを忘れたことなど一日も無いし、今でも心から愛していた。

嘘だろう?瑞希さんは未花ちゃんじゃないんだろう?じゃあ、こんなに吹っ切れないのは何故だろう?俺は瑞希のことまで愛しているのか?だとしたら、本当にどうかしている。もう三十七歳のおっさんなのに、今年十五歳になる女の子をそんな風に思うだなんて。

 あれこれ考えていると、ふとあの日のことを思い出す。

未花の消えたアパート。がらんとした部屋にあるのは、亨の荷物だけ。

項垂れ、泣きじゃくる亨を見下ろしながら、未花も大きな目から涙を零した。

「亨君、ごめんね」

そう言い残すと、ふっとアパートから消えて、光の中に行く。そこには待ち合わせしていた双子の姉、美祈が待っていた。

未花、行こう!

二人は手を取り合うと、光の中へと消えた。そして、二人を包み込む青白い月のように澄んだ父のエネルギーと共に、母の胎内に肉体を持った胎児として入った。

 気が付けば、林田瑞希として生まれていた。

体は一つだった。本当は二人別々に生まれて来たかったけれど、様々な困難を乗り越えるために、二人で一人の女の子の体に入った。そして、瑞希本人と共に十五年という歳月を必死に生き抜いて、ようやく母と大切な人の待つ場所へと辿り着いた。中田亨と甘川弘人…大学生の最後に会った時と変わらない、素敵なままの二人は、三十七歳のオジサンになっていたが、どうやら未花と美祈のことを覚えているらしい。

 その日の放課後、よそよそしい態度のまま、瑞希から目を逸らす亨を捕まえると、瑞希は体をを未花に明け渡した。

「先生…」

まるで幼い子みたいな舌ったらずな声で呼ばれて、亨はどきっとする。

未花ちゃん!振り返ると、そこには未花にそっくりな中学生の瑞希が立っていて、思い切り目を見開いた。

「亨君、やっと会えたね」

そう言って恥ずかしそうに微笑む未花から、亨は思わず顔を背ける。

だめだ…俺は中学生の姿の未花ちゃんと会うわけには、いかない!そんなことをしたら、今度こそ…俺は未花ちゃんに何をするか分からないのだから。

そう思うと、亨はあくまで教師として、瑞希に無理矢理微笑んだ。

「せ、先生のことを名前に君付けとか、悪趣味だよ?」

「でも…高校二年生からずっと、こう呼んでたでしょう?亨君、気づいて?私だよ?」

「ごめんね。先生のことは、中田先生か亨先生と呼ぶんだよ?分かった?瑞希さん」

何とかそう言うと、逃げるように足早に立ち去る。待って!と追おうとして、瑞希は諦めた。病気のこの体では、とても走って亨を捕まえることなど、できない。

亨君、何で?

瑞希いや、未花は声をあげて泣き出した。せっかく会いに来たのに、こんな酷い仕打ちを受けるだなんて。

酷いよ、あんまりだよ!!亨君!!!

人目も憚らず泣きじゃくりながら叫んでいると、ふといつからそうなっていたのか、瑞希の体の主導権は美祈になっていた。

 いつからか、全身が一日中痛み、とても正気では耐えられない体調で、学校へ少し行く以外は寝て過ごす日が増えていた。

なんて辛い体…美祈は瑞希の体に入る度に、眉をしかめる。

はっきり言って自分の体とは言え、この痛みしかない体に入るのは、苦痛でしかなかった。

よく、瑞希は我慢しているよね。

全身転移の末期癌にも関わらず、平然と学校へ顔を出す瑞希に、美祈は心から感心していた。きっと、瑞希がいなければ、ヒロ君に会うこともできなかっただろう。

「大丈夫?」

優しくて甘い声を耳にして、顔を上げると、何とそこにはヒロ君こと、弘人が心配そうに立っていた。どうやら弘人に抱きかかえられているらしく、美祈は思わず顔を赤らめる。

「良かった!気が付いたんだね。さて、中田先生も居なくなったことだし、ゆっくり俺と話をしようか?」

そう言うと、弘人は美祈こと瑞希の体を下ろして、そっと椅子を引いた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

美祈は恥ずかしそうにお礼を言うと、そっと椅子に腰かけた。









お話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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