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5話 恋のから騒ぎ(後編)

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 (すご)んだキロリの迫力もなかなかだが、トムも負けていない。怯むこと無くまた「ふふん」と鼻を鳴らす。


「そういう荒っぽいところがリンダさんに不釣り合いだと言うんです。リンダさんはとてもお上品な美猫です。キロリさんには不相応ですよ」


「なに言ってやがんだてめぇはよう。そんなの判らねぇじゃねぇかよう」


「あなたこそなにを言っているんです。火を見るよりも明らかではありませんか。リンダさん相応しいのは僕の様なスタイリッシュな猫なんですよ」


「へっ、てめぇみてぇな薄っぺらい気障(きざ)なやろうこそリンダには似合わねぇよ。俺みてぇな男らしい猫がぐいぐい引っ張ってやるんでぃ」


「おや、確かに雄猫が雌猫をリードするのはエレガントですけど、あなたの場合はただ振り回すだけの様な気がしますね」


「なんだとてめぇ!」


 一触即発とはこういうことを言うのだろう。ヤシは呆れた表情で2匹を見つつまたたび酒を進めているが、(かおる)(じゅん)としては店内で喧嘩でもされては困る。薫はいつでも出て行ける様に作り掛けの猫まんまを手早く作って提供し、手を空けた。


 その時、出入り口からカガリが晴れ晴れとした表情で「ふぅ」と言いながら入って来た。


「皆さまに事情をお知らせし終わりましたニャ。僕もお腹が空きましたニャ。て、ニャ……?」


 呑気に口を開いたカガリだったが、店内の雰囲気を感じてか眉をしかめる。他のお客も食事もそこそこに、揃ってキロリとトムの睨み合いを固唾を呑んで見つめているのだ。


 カガリと薫の視線が合う。カガリは何事かと疑問を示す様に首を傾げ、薫は何も言うなとばかりに首を振る。カガリはとととっと掛けて来てひらりとカウンタに上がった。


「キロリさんとトムさんはもともとそりが合わないので、よくいがみ合っているのですニャ。今回の理由はなんなのですかニャ?」


 ひそひそ声で訊いて来るカガリ。薫も小声で「ああ」と応える。


「なんやリンダっちゅう猫を取り合うとるみたいやわ。リンダって雌の猫又か?」


「そうですニャ。真っ白い綺麗な雌猫で、この世界での人気者なのですニャ。リンダのことが好きなのはこの2匹だけでは無いのですニャ」


「じゃあこの2匹に限らず、こんなのがしょっちゅうあるんか?」


「この2匹は特別ですニャ。癖の強い2匹なのですニャ」


「ああ、確かに」


 キロリとトムは尚も睨み合い続ける。今にでも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気だ。そうなったらすぐにでも止めなければと、薫も潤も前のめりになった。


 そしてそういう予感は得てして当たるものだ。キロリが乱暴に立ち上がったかと思うと「てめぇ!」と怒鳴り声を上げて地を蹴る。


「なっ」


 そう短い声を漏らしたトムに飛び掛かって行った。


「あかん! 潤はトムさんを頼む」


「分かった!」


 薫と潤は走ってカウンタから飛び出る。カウンタの端が開いていてフロアと繋がっているのだ。


 頭に血が上って掴み合う2匹の胴体を掴み、薫がキロリ、潤がトムを持ち上げる。猫なので体重はそう重くも無いが、トムはともかくキロリが滅茶苦茶に暴れるものだから、薫は身体の数カ所に引っ掻き傷ができてしまった。


「こら! 暴れんな!」


 もう穏やかに話している余裕は無い。薫が怒鳴るとキロリは「止めるんじゃあねぇ! 今日こそはこいつとけりをつけるんでぃ!」とがなる。


「それはこちらのせりふです。そろそろあなたは自分の立場を知らなければ」


 トムが興奮しながらも冷静にそんなことを言うものだから、キロリはますます感情的になって暴れる。薫はまた引っ掻かれて「痛ぇ!」と声を上げた。


 するとその時「止めるのニャ!」とカガリが声を張り上げた。


「猫又が人間さまに怪我をさすなんて言語道断ですニャ!」


 するとキロリの動きがぴたっと止まる。そしてそれまでと打って変わってしょんぼりとうなだれてしまった。感情の起伏が激しい猫だとは思っていたが、カガリの窘めがここまでてきめんに出るとは。


 おとなしくなったので薫はキロリを下に下ろしてやる。するとキロリはゆっくりと薫を見上げた。


「ああ、兄ちゃん本当に済まねぇなぁ……。俺ぁすっかり興奮しちまうと周りが見えなくなっちまう」


 そう申し訳無さげに頭を下げるものだから、薫はからっと笑って言う。


「こんなんかすり傷や。気にせんでええで」


 そう言って傷ができた腕をさする。少しひりひりするが我慢できない痛みでは無い。


「ほんまに済まんなぁ。後で猫神さまに治してもらってくれな」


「猫神さま?」


「猫神さまは僕たちを猫又にした神さまなのですニャ」


 カガリがカウンタの上から降りて来た。


「トムさんも、おとなしくなりましたニャ?」


「はい。僕としたことが、とんでもなくお見苦しいところをお見せしてしまいまして」


 トムが気まずそうに言うと、もう大丈夫かと思ったか潤はトムを下に下ろした。


「申し訳無かったねお兄さん方。ああお兄さん、怪我は無いかな?」


 それに潤は「僕は大丈夫だよ」と応える。トムは「それなら良かった」と笑顔を浮かべる。


「全くもうよう、キロリもトムもいい加減にしろよなぁ」


 ヤシが心底呆れたと言う様に言うと、カツが「そうだよ」と続ける。


「喧嘩するなら他所でやってくれよ。店で暴れられちゃたまったものじゃ無い」


「本当に済まねぇ」


「申し訳無い」


 キロリとトムはすっかりおとなしくなって頭を下げた。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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