普通の雪降る空の下で
昇っていた日も沈み、真っ暗な夜がやってくる。気温の低下から、本来降るはずだった雨は白いふわふわとした姿でやってくる。
私は空を見上げていた。暗闇で凍えるほどに寒い中、呆然としながら雪降る空を眺めていた。大量になると迷惑な雪も、ちらほらと降ってきたのならばとても綺麗だ。それはもう、芸術のようだ。
手が赤くなってくる。手袋もマフラーもせず、制服姿のままでコートも着ず、家から飛び出したのだから冷えるのは当たり前だ。
周りに少しいる人達が、私を変人を見るような目で見てくる。私はこの視線、人の見方をする人達が嫌いだ。何もかも普通が一番って、何を見て普通というのか。当たり前のように生まれて、学校に行って、社会に出て、定年になってそして亡くなる。それが普通だと、誰が決めたのか。世界には、その一般的に普通と呼ばれることが出来ない人もいる。普通の基準なんて人それぞれだ。こうして雪が降ることも、普通なところも普通でないところもある。みんながみんな、普通なんてない。
それなのに、どうして何も楽しみのない普通を強要されるのか。少し変わっていたって、それがその人にとっての普通だ。そんな大多数の人達が思う普通を、この世全ての人間が思っていると思うな。
私は私だ。誰かに運命を押し付けられる筋合いはない。こうして季節の周期は同じでも、毎日が普通であるはずがない。世界は常に不規則だ。
空に輝く月に向かって手を伸ばす。これだけ自分を納得させようと大多数の人達の言う普通は嫌だと言ったが、そうせざるを得ない世界なのだから、嫌でもそうならなければならない。でないと、この世界で生きていくことは出来ない。
私も、この空のように美しく、自由になりたい。もし天使がいるのなら、この雪降る空を一緒に散歩させて欲しい。一度でいいから、本当の自由を知りたい。
降ってきた雪を手で受け止める。しかし、すぐに溶けて水になる。空は自由でも、雪という存在はいずれ水にならなければならない運命にある。それに抗う術を雪は持たない。生まれながらに何かになるという、まるで生き物だ。
苦しいし悔しい。だけど、私は人間なんだ。この普通という運命からは逃れられないし逃れる術を知らない。もしも背中に翼があるのならば自由に生きられるけど、その翼もまた私の背中には付いていない。最低限、少しでも幸せに生きられるように今できることをしよう。たまにはこうやって、家から飛び出して一人になるのも悪くない。
私は一度呼吸を整える。そして、来た道を戻り始める。従うしかない運命から脱出できるかは私次第。今はただ、前に向かって歩くしかないんだ。
──この日私は、雪が水に変わるように、少しだけ、人として何か変わることができたような気がした。