伍
「ところで、なんでドMで職にあぶれてる人が必要なのさ?
真逆モチベーションとか言わないよね。」
一人が聞いてくる。
失礼な。
「唐辛子を粉末状に加工するため。
カプサイシンは痛覚を刺激する。
これを少量の水に溶かし、小さなスプレーボトルに入れて携帯する事で護衛に使える。
顔に吹きかければ目や鼻、喉の粘膜から吸収され、激痛を与える。
目は大量の涙が出て、痛みで一時的な失明になる。
鎮圧に使えるんだ。
それと、拷問にも。」
「つまり、武器を造るためと。」
「それだけじゃ無い。
この国と真っ向勝負した後、安定しない状態からの脱却の為には経済の回復が不可欠だ。
その時、激辛料理を流行らせて経済の回復を目指す。
そのために粉末状にした唐辛子が必要になる。
その前準備の様な物だ。」
「ふーん。
わたしゃ馬鹿だからその辺分かる訳じゃあ無いけど、きちっと考えてるならそれをはっきり言った方が良いんじゃないか?
特に今回はあんたが特殊性癖と勘違いされるかも知れなかったんじゃ無いか。」
聞いてきた人がそっと目を逸らす。
「まあ確かに不服だね。」
目を逸らした彼女を睨め付けるように言い放つ。
「分かった。
次からは気をつけよう。」
「ああ、悪いね。
口出しなんかしちまって。」
「いや、寧ろこう云う事はどんどん言って欲しい。」
「却説、俺は俺の遣るべき事を遣ろう。」
そう言って庭へ出て、地面に穴を掘り始める。
「なあ、焔魔法は使えるか?」
「ん?使えるよ?」
「じゃあ、この穴が完成したら手伝ってくれ。」
「好いよ。」
ある程度、と云うか15cm程度掘り進めると、穴の形を出来るだけ正確な半球に整え、表面に砂をまぶし軽く磨き上げる。
次に、其処に鉄を入れ、申し訳程度に囲いを造る。
申し訳程度とは言え、火力に少なからず良い影響があるだろう。
「火を頼む。」
「了解。」
釜擬きの中の鉄が溶け、穴から少し溢れて固まる。
それを一度取り外し、穴を1cm程掘り広げる。
少量の銅を入れ、先程の鉄塊で蓋をする。
温度に気を配りつつもう一度火を頼み、ドーム形の銅を作り上げる。
蓋の鉄の融点は1538℃、銅の融点は1085℃なので蓋の鉄が溶ける事はない。
このドウム形のドウの内側を磨き上げる。
先ず粘土質の土を探し、そこに細か目の砂利を練り込む。
徐々に砂利の大きさを小さくしていき、最後に水で洗えば取り敢えず本体は完成。
上から糸を垂らし、ドームの丁度真上にANFO爆薬を吊す。
「よし、完成!」
「一寸待ってそれ何?」
「何って…
太陽光フライパン。」
「さっき吊してたのは?」
「ANFO爆薬。」
「え?」
「よく燃えるんだ。
あはははははははははは。」
「え?大丈夫なの?」
「大丈夫。圧縮してないから爆轟せずにただただよく燃える。」
「いや、そうじゃなくて頭の方。」
「え?」
「だから、頭大丈夫?って。」
「うん…(´・ω・`)」
「いや…なんか……すみません。」
「いえ…」
地味に傷ついた。
それはそうとして上手く行くのか。
地球と物理法則が同じならば一点に光が集中すれば熱エネルギーが生まれる筈。
だが果たして、魔法なんてある世界で物理法則が地球と同じなんて都合の良い事があるのだろうか。
もし、もし違ったら。
それは俺らにとって大きすぎるハンデになる。