参
嘘を吐いている。
只その一言が、この場では大きな意味を持つ。
「取り敢えず、この能力の真偽を証明したいと思う。
今からカードを人数分配る。
それに真か偽のどちらかを書いて、此処に真と書きましたと言ってくれ。
そうすればこの能力の真偽が分かるだろ?
俺の能力は嘘でも頭の回転が速い程度で済むが、こっちの能力はそうもいかないしな。」
そうして、三分後。
「本当だ。全部合ってる。」
「却説、本題だ。
取り敢えず、彼女をどうするか案を出して欲しい。」
そう言うと、その大半が悩み始める。
最初に口火を切ったのは大柄な男だった。
「殺すべきだと思う。
俺らの命が懸かってる状況で、裏切り者に情けをかける余裕は無い。」
次に、主人公っぽい少年(青年?)が声を上げる。
「俺は、信じてみようと思う。」
そこで俺は一言発する。
「言い忘れてたんだが、此処での判断が俺ら全員の生死に直結する。
安易な信頼は、集団自殺と同じだと思ってくれ。
それでもなお信頼すると言うならば、それに足る根拠を提示してくれ。」
これは、狡いやり方だ。
こう言ってしまえば信じるということは簡単に言えなくなる。
それに、この短時間で信頼に足る根拠を見つけるのは非常に困難だろう。
この言い方は、要するに彼女を処罰する方向への誘導だ。
それをこのタイミングで言う。
それは彼の意見に反対すると、表立って言ったに等しい。
「……。」
それを分かったのか、一旦押し黙る。
しかし、彼の仲間(ハーレム要員?)が苦言を呈す。
「ちょっと待ってよ。
こんな直ぐ根拠なんて出せる訳ないじゃん。」
それに対し、これ見よがしに大きな溜息を吐き、説明する。
「じゃあ根拠が見つかるまで待てと?
その間に此奴が国へ報告したら?
この国は、モンスターを容易く生け捕りに出来る軍事力がある。
鍛えても居ない、戦場の空気も知らない、挙げ句の果てに命を賭けた事もない若造……
違うな、雑魚なんて簡単に処分出来るんだよ。
だから!今此処で!
現時点での状況で処分を決めなきゃなんねえんだよ。
それとも何だ?
あんたらの不確かな感情論で、俺ら全員命を擲てっつーのか?」
その言葉で、全員に暗い雰囲気が纏わりつく。
「俺は、殺すべきだと思う。」
「それでも!それでも……」
「おし分かった。
全員で、多数決を採らないか?
殺すべきか、生かすべきか。
それなら納得できんだろ?」
「クッ…
分かった。」
「先ず最初に、改めてそれぞれ一分メリットをスピーチする。
それから決を採って、その結果で彼女の処分を決める。
これで良いか?」
「ああ。」
「先攻後攻、好きな方どうぞ。」
「それじゃ先言わして貰う。
良いか皆!
今此処で彼女を殺そうものなら、戦力がかなり減るんだ。
しかも、彼女から情報を得ることだって出来やしない。
そして何より、
皆は人を殺したいか?
俺は殺したくない!
出来ることなら人殺しにはなりたくない!
当然だ。
俺達は日本人なんだから。
だから頼む、皆俺に賛同してくれ!
助けたいんだ!」
それで、スピーチは終わりだった。
「今度、俺が言わして貰う。
俺が言いたいのは一つ。
生きたいか、死にたいかだ。
俺は死にたくない。
もし彼女を解放すれば、どうなる?
殺される。
なあ、量りにかけてみてくれ。
自分&etc.の命と、見ず知らずの赤の他人の彼女。
どっちが大事だ?
良く考えてくれ。」
投票の結果、此処にいる13人(俺含む)のうち、9人が俺に賛同してくれた事により死刑(私刑でもある)が確定した。
「それじゃあ死刑を執行する。
筋書きはこうだ。自己紹介の時、些細な切欠で口論になり、彼女が俺に殴りかかる。
俺は、えーと……すみません、名前を聞いても?」
巨漢の人に名前を聞く。
「田中だ。田中とでも呼んでくれ。」
「はい。
俺は、田中さんに背中を押されて助かる。
が、その衝撃で田中さんの剣が倒れ込み、勢いのまま突っ込んだ彼女の右眼球にクリティカルヒット。」
少し間を開けて、失笑しつつ次の文を発する。
「眼球を貫き通し、そのまま剣は脳髄まで到達。
それにより死亡。」
「後処理ですが、この騒動でパニックになった魔法使いの方が魔法を乱射。
証拠隠滅、盗聴機録音機の破壊、部屋の修理費による国への嫌がらせを兼ねています。」
そう言って、田中さんから剣を借り、彼女の右目に突き刺す。
そのまま全体重を載せ、彼女の脳天を貫く。
死体を横に倒し、あたかも先程の筋書き通りの事が起こったかの様に見せる。
「魔法使いの方、魔法の乱射をお願いします。」
こうして彼女を殺し、ストーリーは漸く幕を開ける。