弐
やった。殺れたんだ。
「おーおー、勝利おめでとさん。
取り敢えずお前は元の集団に戻れるよ。」
そう言ってから、耳に口を近付けてこう言う。
「あんたのおかげで少し小遣い稼ぎが出来たよ。」
「ああ。それは良かった。」
小声で返す。
そのまま、兵に案内され戦闘組の所へ戻る。
最後に兵に忠告される。
「この事、バラすなよ?」
きっと分かっているだろう。
俺が、律儀にそれを守るはずなど無いと。
そしてまず、最初にリーダーシップを執っていた人の所へ向かう。
「すみません。」
「あれ?君は生産職になったんじゃ……」
「落ち着いて、一切声を出さず、無反応で聞いて下さい。」
「!?」
彼は訝しみつつも、俺の剣幕に押され話を聞いてくれるようだ。
「生産職になると連れて行かれた人間は、」
そこで彼が自らの口を抑える。
「自分を除いて全員死亡しました。」
息を飲む音が聞こえた。
彼は短くヴッと声を漏らしていた。
「続けます。
その経緯などを、全員に伝えたいです。
貴方が、「新しく生産職から戻って来た奴も居るし、改めて自己紹介したい。そこで俺ら以外の、国の人が居ると団結に支障が出る。」と言うことを言って欲しい。
俺が言うよりも力があると思う。
良いか?」
彼は少々悩み、そしてそれを承諾した。
「なぁ、みんな!
新しく生産職から戦闘職に来た奴も居るし、ここらで改めて自己紹介しねえか?」
すかさず国の奴が声を挟む。
「それでしたら我々も……」
「いや、良い。
自己紹介もあるけど、お互いを知って団結高めるっつーのもあるから。
それに、正直言うと監視されてるみてぇで気分悪い。
いや、違うって分かってるんだが、こうどこでもついて回られると監視されてるとしか思えねぇ。」
それにより兵は一瞬苦虫を噛み潰すような表情をするが、直ぐに営業スマイルに切り替える。
「それなら仕方ありませんね。」
こうして、全員に事実を周知する機会を手に入れた。
全員集まったら、円陣を組む。
会話が漏れないように。
「良いか?
いきなりで悪いんだが、今から言うことに一切反応しないでくれ。
これは、全員の命に関わる話だ。」
その場が静まり返る。
「まず最初に、
生産職になると連れて行かれた人間は、俺以外全員死んだ。」
ただ、事実のみを淡々と伝える。
「俺は、イカサマで生き残った。
生産職と言われた人間は、モンスターと戦わされた。
生き残った奴だけがこっちに戻ってこれるってことで。
証拠として、俺の戦闘力がある。」
そう言って、俺のステータス、戦闘力9を見せる。
「雑魚を戦闘組に戻すか?
いいや、そんなわけ無い。」
それに対し、気の強そうな女の人が小声で反論する。
「だったらなんでお前がモンスターに勝てたんだよ?」
「言っただろ。
俺はイカサマで生き残ったって。
バトった話は今は置いとく。
それ以上に重大な事があるからだ。」
「国が敵って事?」
「ああ。
それともう一つ。
こっちの方が逼迫してるな。
覚悟して聞いてくれ。」
そう言って、少し間を開ける。
「人を、殺す覚悟はあるか?」
息を飲む音が聞こえる。
微かな嗚咽のような物も。
それを意図的に無視して話を続ける。
「彼奴等にとって、俺達は体の良い兵器でしか無い。
戦争で、殺し合いで使えない兵器をどうする?
答えは一択。"捨てる"だ。
俺らが力をつけるまで、俺らは人を殺す以外の選択肢は無い。」
数名が口を抑え、嗚咽を漏らす。
吐き気を催す話だ。
無理もない。
だが、話を続けねばなるまい。
「それと、兵器が自分の意思で動かぬよう、傀儡にするかも知れない。
ステータスなんてものがある世界だ。
隷属の魔道具みたいなのがあってもおかしくない。
出来るだけ、国から貰った物には手をつけないでくれ。
食事もだ。
麻薬を入れて薬漬けにして操るかも知れない。
思いつく限り最大限の警戒をしてくれ。」
気分が悪い。
そりゃそうだ。
こんな話をしているのだから当然だ。
「却説、此処からは少し明るい話をしよう。
と、その前に。
俺の名誉の為に言っておく。
今から話すのは本当の事だ。
先ほど以上に信じられないかも知れないが。
なぁ、此処に来る前、神にあったか?」
一人が軽く目を見開き、それ以外の全員が首を横に振る。
「そうか。
なぁあんた、誰を助けて何の能力を貰った?」
「正直者の目。
嘘が見える。」
「俺は考える時間。
三時間、時が止まって考える時間が出来る。
動けないけどな。
クールタイムは一時間。」
「そんじゃ、全員にこう聞いてみてくれ。
"この話の内容を他に漏らそうとしているか"」
「……分かった。」
少し口角を上げ、聞いていく。
すると、さっき突っかかってきた女の人の前で止まり、
「この人、嘘を吐いている。」
to be continued